閑話 ある頑丈な刀の話

 ハモンが村に戻る頃には太陽は西に大きく傾き空は茜色あかねいろに染まっていた。

 夕日が雪に反射し目にまぶしさを覚える景色けしきではあるが不思議と綺麗だと感じる人間が多い。


 そんな景色を綺麗だと思わない者も勿論もちろん居る。

 認識できない者が居る。


 ハモンの腰にげられた刀、罅抜ひびぬきの中に居る者はそんな一人だ。

 そもそも触覚以外の感覚が無いのだから景色を認識する事も叶わない。景色を見たいという感情も持ち合わせていない。

 ただ柄頭つかがしらに乗せられたハモンの手の感触に満足感を覚え、より強く握って欲しいと願うばかりだ。


 人の多い場所に入るからか罅抜ひびぬきは自身がさやから抜けないように縛り付けにされる感覚に少しの不満を覚える。

 できる事なら抜身ぬきみの刀身を常にハモンに見つめていて貰いたい。だがそれはハモン以外の視線を受ける事にも繋がってしまう。

 視線など認識する器官は持たない身であるが見られる相手を選ぶ程度の知能は有る。


……ああ、兄様あにさま。私を抱いて寝て下さいまし。


 罅抜ひびぬきの中の意識はただハモンと触れ合う事だけを待ち望んでいた。

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