第三幕 虫獣の討伐
窓から差し込む朝日が顔に掛かりハモンは目を覚ました。
何が
約束していた朝食と弁当を貰えないかと
「良い朝だな」
「おはようっ」
「あら、剣士様と仲良く成ったのね」
「うんっ」
「
「イチヨの相手して貰っただけでもお礼言いたいくらいですよ。ああ、朝食できてますよ。あと握り飯を用意したんで持ってって下さい」
静かに笑みを浮かべて礼を言いハモンは空いた席に着いた。
何故か正面にはイチヨも座る。
そこに母親が二人分の食事を
「頂こう」
「頂きま、い、頂こう」
「……いや、お前は『頂きます』と言え」
「ぇ? 頂きます?」
「そうだ」
「分かった! 頂きますっ」
流石に自分の口調が移りイチヨの
昨晩の夕食を
「トト様とカカ様のご飯、美味しい?」
「ああ。これが毎日食べられるイチヨは幸せ者だな」
「うん! ウチもトト様とカカ様のご飯大好き!」
イチヨは自分が
子供らしい素直さに
やがて食事も終わりハモンは仕事の為に定食屋を出る。
定食屋とはいえ仕込みや家の事で両親は忙しい。
村長に声を掛けて
「旅で持ち歩くには大きい。良ければ引き取ってくれないか?」
「おや、よろしいのですか?」
「
「ほほ、ではそのようにしましょう」
イチヨがハモンに
特に話題も無いハモンは早々に村長と別れ村の外、
基本的に冬は虫獣も熊と同様に冬眠している。しかし雪解けの時期は丁度冬眠から覚め始める。
定期的に討伐隊を出せれば最良だが
そうなると単独で虫獣を狩れるハモンのような剣士は
銭が安い事は
雪解けの時期らしい薄く積もった雪をハモンは
そんな風に森の中を歩いていると太陽が南の頂点に達した。木々の隙間から日の高さを確認したハモンは持たされた弁当で腹ごしらえをする事にした。
木に背を預けて剥き出しの根に腰を下ろす。何枚かの
弁当らしく冷めても美味く食せる事を意識してか塩気が少し強い。握り飯の中に梅干しでも入っているのかとハモンは首を
「有難い」
雪積もる森を行くのは疲労が激しい。そんな疲労を見越した強い塩気の心遣いに感謝しながら握り飯に
指に張り付いた米粒も舐め取って食事を終え、適当に雪を拾い上げ手の温度で溶かして手を洗う。
大葉の扱いが分からないので適当に畳んで懐に仕舞い、冷たい空気を鼻と口で大きく吸い込んで仕事を再開する。
虫獣アムリは基本的に群で行動する。長さも太さも男の片足ほどなので数匹で人間に張り付くと一瞬で肉を喰い尽くしてしまう。
その為、
だが森の中で火を使えば大規模な火事に発展する可能性も高い。
火も使わずにアムリ討伐をする際には最初に一匹を
悲鳴を出せる程度に尾と
生物の
アムリらしいわだちを見つけハモンは小さく
静かにわだちに沿って森を進み、やがて単独で周囲を見渡すアムリを見つけた。
人間とは全く異なる五感を持つ虫を捕獲するには足音や呼吸音を消すだけでは足りない。
静かに左手中指に装着した鎧を向け、意識を集中させた。
指先に
火球は勢い良くアムリの下半身に着弾して弾け、肉片と深緑の体液を撒き散らす。
古代遺跡から発掘される
アムリが弾けたのを確認して即座に跳び出したハモンは
着弾した部分を見れば火球で傷口が焼き塞がれておりそれ以上に血液が垂れ流される事は無さそうだ。
アムリをブーツで踏み付け
「暴れなくても離してやるさ」
今まで自分が歩いて来た場所に戻れば森の深部から複数の雪を掻き分ける音がし始めた。本来は聞き取れない小さな音の
木の陰から死に損ないを
ここまでは下準備だ。
ガムリとはまた違う緊張感にハモンは小さく深い呼吸をし、木の陰から飛び出した。
飛び出したハモンは地面から
死に損ないに
隣で同族が死体に成ってもアムリたちは死に損ないを喰らうのを止める様子は無い。
牙を
まだ死に損ないを喰い尽くすのには時間が掛かりそうだ。それにたった今切り殺した三匹を放り投げてやれば追加の餌と勘違いして気を引く事も可能だろう。
直ぐに隣へ向けて
その調子で七匹を切り殺し残りは三匹まで減った。
飛び散った血肉の臭いと
直ぐに二匹が体を起こしハモンの脚へ飛びつこうとしているのが分かる。
右下段に構え小さく踏み込む。
左上に向けて振り上げ一匹の頭部を切り落とし、足を止めずに二匹目の横を通り抜ける。その間に三匹目も体を起こしたのを横目で確認する。
数で勝る相手に足を止めていては直ぐに押し潰される。本能で動く虫が相手だろうと
ハモンにそんな
だから手近なアムリから切り伏せる事にした。
踏み込みの間に振り上げた
地面を滑りながら振り返る事はせずに木の陰に走り抜ける。追走してくるアムリの不意を突く為に木の背後を回り込む。
二匹のアムリの内、後ろを走る個体を横から襲撃した。
右下段から上方に切り上げる斬撃で一匹を
背後にハモンが現れた事を察知した残る一匹へ縦斬りを放つ。
ハモンを察知した最後のアムリが牙を上に
巨虫ガムリほどではないがアムリの牙も柔らかくはない。加工技術の無い村ではアムリの牙を護身用の
だが、ハモンの振るう
ただ純粋に刀としての性能を最も効率良く発揮する為の縦斬り。
合計十匹のアムリの
それを眺めたハモンが
空を見上げると太陽は既に南天から大きく傾いていた。
あと
緊張により浅くなっていた呼吸を正常に整える為に意図的に深く大きく息を吸い、静かに吐いた。雪景色に見合う冷たい空気が
日が暮れた森は危険だ。
下手に村人を心配させるのも不本意なので今日は村に帰る事にした。
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