第36話 新たな武器
「考えてくれたか?」
「とは言ってもな………」
「このままじゃ次の迷宮異変が起きたら間違いなく死者が出てくる。前々からどうにかしたいと思ってた所なんだ」
「ならばガイがやれば良いでは無いか。まだ探索者として月日が短い俺なんかよりも余程適任だ」
「そうしたいのは山々なんだが、組合の事もあるし中々時間が取れねぇんだよ。それに今回の迷宮異変で大体は払拭出来ただろ?そんな気にする事はねぇって」
「むぅ……」
今回の迷宮異変が終わってから一週間後。
負傷者の治療、元凶である魔物の情報提供、迷宮異変についての報酬分配、謎の赤黒く光る刀の鑑定と、色々と皆慌ただしく過ごしていたが最近ようやく収まって来たところだ。
俺はというと、今回の迷宮異変解決に多大な貢献をしたため臨時の一億レナーと元々の参加者が貰える多額の報酬金、それにプラスして道中で倒したゴブリンのドロップ品を売った正当報酬を入手することができ、お陰で懐がかなり暖まった。まあ、元々余り使ってないから一体幾ら位になってるかは正直わからんがな。
因みに金は普段使いする分の金額以外は銀行へと預けてあるため、今回のような膨大な金が急に手に入っても嵩張る心配はいらない。この都市に来た当初は口座も無く、一々全額持ち歩くのも面倒臭かったため、この世界にも銀行があって助かったな。
その他にもウル以外の知り合いが結構増えた。どうやらあの赤黒いゴブリンと戦っていたのを負傷者組からもチラホラと意識を覚まして見ているもの達が居たらしく、今では気軽に挨拶も交わし、近々迷宮へと一緒に行く話となっている。
それとあの赤黒いゴブリンの正式名称が決まったらしく、新種と言うこともあって新たに「ジェノサイドゴブリン」と名付けられた。まあ、あいつの残虐性を考えると妥当な名前だな。
そうそうあの謎の赤黒い刀についてだが、組合の方では鑑定する道具の能力不足のせいか名前すら判明出来ずに何も知ることが出来なかった。
後日改めて鑑定のスキルを持っている領主のスキル仕様許可を得るためその場では解散となったが、昨日無事に許可が降りたため、今日は詳細な鑑定をしてもらおうと謎の赤黒い刀を入れた大きめな袋と共に都市に繰り出していた。
しかし、何処でその事を嗅ぎ付けたか、いつの間にかウルも一緒に行く事になっていた。朝から俺が泊まっている貸家の前で待ち伏せしており、話を聞かされた時は目眩がしたものだ。
それだけでも厄介だったのについでに寄った深層の組合にて、ここのマスターであるガイから話があると言われ強制的に部屋へとウル共々連れ込まれたと思ったら、前に話していた件について再度答えを聞かせて貰いたいと言われ今に至る。
「何もお前だけに依頼するわけじゃねぇよ。他にも前々から話していた奴らは居る。例えばそこに居るウルとかな」
「そうなのか?」
「ん。でも面倒臭い上に誰かに教えるのは向いてないから断った」
「そうだな。その時は断られたが今はお前の師匠がいる。どうだ、お前もやってくれるんなら特別に自分のところの奴らを鍛え終わったら真斗の方へと行く事を許可してやるが?」
「分かった、やる」
「即答するな。まだ俺はやると承諾した訳では………」
「という事で話は終わり。師匠、早く刀の鑑定に行くよ」
「だから、話を聞けと―――」
こちらの返事を待たないままさっさと部屋から退出して行ったウル。
部屋に入ってからもずっとソワソワと忙しなかったからとはいえ、少しは待つことが出来ないのかあいつは。
全く、呆れてため息がでる。
「まあ、そういう事で頼んだぞ?今更無しってことになったらあいつは拗ねるからな。例えウルの早とちりだとしても責任を取るのは真斗になるから諦めるこったな。ハッハッハ」
「はぁ、全く………」
何となくゴリ押しされた気がしなくもないが、確かに今更無しと言ってもあいつは聞かんだろうからな。それくらいは今までの短い付き合いからでも分かった。
「まあ、他のやつらの予定もあるから詳しくはまた追って話す。だから今はさっさとウルのやつを追った方が懸命だぞ」
「………最早ため息すら出んな」
下から俺を催促する声が響くのを聞いて、俺は一方的に決められた話しと共に憂鬱な気分になるのだった。
◆
「少々お待ち下さい」
逸るウルに急かされてやって来た領主館にて、俺たちは門番から話を通してもらい、執事らしき人から部屋へと案内されて少しの間待つ事になった。
待っている間、ずっと立っているのも何なので二人揃って近くにあったフカフカのソファに腰を下ろす。
「……」
二回目とはいえ周りの家具等を改めて見るとどれもこれも高そうな物ばかりで少々場違いな気分になるな。別にそんな事はないと思うが、まあ、家具は疎か自身の持ち家すら無いのだから仕方ないか。
「む〜」
もっとも隣のやつは全くそんなことは無いようで、大きな金色の尻尾をわっさわっさと振って領主が来るのを今か今かと腕を組みながら待ち構えている。
時折顔にかかってるし、鬱陶しいから辞めてもらいたいものだが、言ったら言ったで面倒臭い事になりそうだから我慢する。
そうして待つ事暫く、ガチャっと領主が扉から入って来た。そして俺達の対面のソファに座ると、その横に護衛と思しき二人が並ぶ。
「待たせたな」
「遅い!」
「悪い悪い」
開口一番に怒るウルに手をひらひらと振って気軽に対応する領主。普通に考えたらお偉い様にこんな舐めた口を聞いたら不敬罪やらで縛り首なんだろうが、この迷宮都市は違う。
領主とは言ってもこの都市には貴族制はなく、あくまでも都市の代表者なだけで別によくある物語の権力者では無いみたいだ。
良いとこ前世での社長枠だと俺は思っている。それでもこんな暴挙はしたらダメだと子供でも分かりそうなものだが。
領主側も忙しいだろうに、それをコイツと来たら………
「すまないな領主。何分、朝から刀の事でずっと煩かったからな」
「すまないと思うなら最初から連れてこないで欲しいものだが。まぁ、ウル・アシュレットだからな。言うだけ無駄か。それよりこの後もまだ仕事が残っているんだ。用事は手短にしてくれると助かる」
「む、そうか。では早速……」
そう言って足元に置いてあった袋から迷宮異変によって手に入れた謎の赤黒い刀を手元に出し、対面にある机に置く。
相変わらず呪われそうな見た目とオーラを放っているが、特に問題ないことはこの身で証明済みである。
「ふむ……」
領主は机に無造作に置かれた赤黒い刀に目を向け、時折手元に出した紙に何かを書きながら何度か頷くとこちらに顔を向け直した。
「この刀は事前に聞いていた通り、魔造武具と呼ばれる類の物で間違いないな」
「本当!?」
「ああ。しかもその中でも上澄みと呼べる程の逸品だ」
「やったー!」
どうやらジェイやドールが推測した通り、この刀は魔造武具と呼ばれるものらしい。それもその中でも上澄みの逸品。
俺は内心「いいお宝が手に入った」と少し興奮していたが、何故か自分のものでもないのに凄い喜びようを見せているウルの奴を見て思わず冷静になる。
「それで、詳細は?」
「銘は『《かくぎゃく》赫虐』。持ち手の身体能力の向上に加え、壊れても自然に元通りになる自動修復機能。更に杖としての役割もでき、魔法を扱う時に様々な補正と補助が付く。刀としての性能も言わずもがなであり、魔力を通すと更にそれらの性能を大幅に引き上げる事が出来るようだ」
「おお……!」
「個人的にはこの都市のために手元に持っておきたいほどの魔造武具だな。どうだ、迷宮都市に売る気は無いか?」
「領主には残念だが、売るつもりは全くないな」
「そうか、じゃあ仕方ないな」
「やけにあっさり諦めるな?」
「探索者というものはそういうものだと諦めてるからな。今のやり取りも一度や二度じゃない。それに元探索者としては手放したくない気持ちも分かるからな」
「探索者だったのか」
「昔な。でなければ伊達にこの都市の領主なんか務まらんよ。代々の慣習だな」
どうやらこの都市の領主は探索者をしていないと務まらないらしい。まあ、大なり小なり荒事を仕事としている連中だからな。そうなるのも必然か。
それにしてもこの刀、本当にとんでもない性能をしているみたいだな。いや、他の魔造武具を知らないから何とも言えないが、少なくとも武器としては破格の性能をしているのは間違いないだろう。
………まあ、非常に残念なことに俺には使えないのが難点だが。しかし、だからと言って売るなんてもったいない真似もできないしな。やはり当初に考えてた方法にするしかないか。
「ウル」
「分かった、大事にする」
「まだ何も言ってないんだが?」
「この刀を私にくれるんでしょ?」
「まあ、そうなんだが。お前、分かってて着いてきたのか」
「当然!」
フフん!と突然立ちながら大きな胸を逸らしてドヤ顔する。……何となくイラッとするな。
確かにウルの言う通り、この刀はウルにあげようと思ってたが。
「良いのか?こんな貴重な物をこんな小娘に渡してしまって」
「誰が小娘だ!」
「お前だバカ。まあ、俺には武器を扱う才能も魔法の才能も無いからな。売るのも何だし、腐らせる寄りかは余程いいだろ。それに前々から新しい刀が欲しいって言ってたしな。丁度いい。」
「そうか、道影 真斗が言うのならばその意思を尊重しよう。さて、それじゃあ用事は済んだな?そろそろ私は仕事に戻る。試し斬り用の丸太は用意させてあるからこの者に案内して貰ってくれ。それだけの逸品ならば私も見たかったのだが、何分忙しいものでな。これで失礼する」
領主はそういうとサッと席を立ち左右にいた護衛の内、左の方を残してさっさと退出して行った。
正直な所、鑑定なんて雑用を忙しいであろう領主に頼んでいいものかと思ったものだが、終わってみれば案外なんてこと無かったな。
話を聞く限りでは似たような事を何度も経験していることから、もしかしたらこの鑑定も仕事の内の一つなのかもしれん。
「では早速専用の場所へと案内させていただきます。あ、私ミラと申します。どうぞ、お見知り置きおきを」
「ああ、宜しく頼む」
丁寧にこちらへと自己紹介してくれたのは高身長好青年なエルフだった。どうやら彼が案内してくれるらしい。
領主と一緒になって入ってきた時から少し気になっていたが流石は領主の護衛、中々にレベルが高いではないか。
流石にウルほどでは無いが、それでも十分に深層の探索者をやれるほどの実力者であることがその気配で分かる。それを考えれば、当然右にいた護衛の方も同等の実力者なのだろう。
「早くしてペタンコ」
「ペタッッッ!?ッスー……後でどつき回してやるから覚悟しとけよ小狐が」
「ペタンコには無理」
「言ったな?上等だ、さっさと着いてこい。格の違いを今度こそ見せてやる」
ウルが何やら余計な事を言ったせいか、いきなり険悪な雰囲気になり、そのまま護衛の人はスタスタと歩き出してしまった。
というか彼、いや彼女は女性だったのか。口にする前に判明して助かったな。危ない所だった。
「師匠、行くよ」
「ん、ああ」
いきなりのキャラ変、というか口の悪さに少々驚いたが、ウルの言う通り見失わない内にさっさと着いていくとするか。
そうして俺達は迷宮から出土した魔造武具、「赫虐」の試し斬りをしに行くのだった。
……男だと勘違いしていたことは俺の心の中でひっそりと謝罪しておこう。
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