第6話 化け物
そこには地獄絵図が広がっていた。
一人の人間と数えるのも億劫な程の虫の大群。
それらが周りを血の海にしながらも殺しあっている。
片方は殺す度に肉体が損傷しては元通りに治っていく。破壊と再生を繰り返しながら己の敵を一匹一匹と確実に屠っていく。狂ったように笑いながら。
もう片方は感情など持ち合わせて無いはずなのに目の前で次々と仲間を殺し尽くしていく存在に恐怖しながらも、仇を討たんと、何があろうともコイツだけは生かしては置けないと、そう次々と特攻しては殺されていく。無様に身体を貫かれ地面に叩き落とされながら。
「ハハハハハハハハ!!良い!良いぞ、もっとだ!お前達を殺す度にどんどん力が湧いてくる!俺が経験したのはこんなもんじゃ無いぞ!種ごと根絶やしにしてやる!アッハハハハハハハハ!!」
「ピギー!」 「ギッ」 「ギュピー!」 「ピッピー………。」
人間は敵を倒す度に強くなっていき、段々と殺すスピードが上がっていた。
一匹、また一匹とあれだけいた数が今では終わりが見える程にまで減っていた。他は全員殺されたのだ。
「ッ…ギ!」
もう後がないと言わんばかりに、今までよりも特攻の勢いが増し始めた。
「ギッ。」 「ギッギ。」 「ギュピ!」 「ッピ!」
「うお、今度は糸か!こんなものっ……!?は…外れねえ!!やべぇ、両腕が動かん!」
互いに連携をとって目の前の化け物の動きを制限した。このまま攻めれば勝てる!その喜びを表すかのように身体を跳ねさせ食いちぎろうとする。
「喜んでる所悪ぃんだが、まだ俺は戦えるぜ?例えば、こんっなふうに、な!」
バァン!
飛びかかってきた虫を自らの頭部を振りかざし、強烈な頭突きをかました。そして互いに一段と大きい音を出しながら破裂した。虫は全身を、人間は頭部を。
「ピギー!」 「ピギー!」 「ギッギッギッ!」
虫達は仲間の勇敢な行動を讃えるかのように、その身を犠牲に化け物を討ち取ったかのように、一斉に鳴き始めた。コレでようやく終わったと、流石に頭が破裂して生きてはいまいと。自分たちが勝ったのだと。しかし―――
「言ったはずだよな?俺はまだ戦えるってなぁ!」
それは聞こえるはずのない声によって虫達をすぐさま絶望に叩き落とされた。
「ウラァ!」
「ギュ!?」
バァン!
また一匹頭突きで破裂した。
「………ふぅ、こいつは案外使えるなぁ。なあそう思うだろぅ、お前達も?」
目の前にいるのが生物なのか、それとも生物ではないのか。その自分の頭ごと敵を破裂させて殺し、肉が盛り上がり頭が再生してはまた頭突きして殺していく様に、もう虫達には何一つとして理解出来なかった。
そうして余りの出来事に止まってしまっている虫達を次々と頭突きで殺して回っていくと、もう数える程しか虫は残っていなかった。
「ギュピー!」
本能か、それとも恐怖ゆえか、その鳴き声を皮切りに次々と虫達は化け物から背を向け逃げ始めた。このままでは種、そのものが滅んでしまうと。全力で生き残らなければと。己が持つ最高速で。だが、
「俺はこうも言ったよな。」
前方から声。
「ギュ!?」
バァン!
いつの間に回り込まれたのか、その化け物はまた頭突きをし、残り数の少ない仲間の一匹を殺した。逃げれない。逃げることが出来ない。生き残る事が出来ない。どう足掻いても無理だ。
ああ、自分達は一体何に喧嘩を売ってしまったのだろう。叶うならば、どうかあの時をやり直させて欲しい。そんな虫達の懇願にも似た思いは、
「……根こそぎ殺し尽くすってなァ?」
この日、一人の人間によって世界から根絶やしにされたのだった。
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「ふう…。流石に疲れたな。」
俺は虫共を駆逐した後、近くにあった岩に座って休憩していた。
「改めて冷静に周りを見ると結構酷いことになってんなぁ…。」
どれくらい戦っていたのか分からないが、 見渡す限り辺り一面が自分の血と虫共の血で染まっており、その周辺には虫の死骸で溢れ返っていた。
そしてきっと匂いも酷いのだろう。生き物が一切近寄ってこないのがいい証拠だ。
「俺が何も匂わないのは鼻が麻痺してるんだろうか?それにもうこの服も着れんな……。」
虫共と死闘を演じたが故に、転生前に着ていた服はほぼ全裸に等しいくらいにボロボロに破れていて、ありとあらゆる血で全身真っ赤やら真緑やらで汚くなっていた。
「流石に服は変えるとして、全身ベタベタするしとりあえず水浴びしたいな。面倒いし疲れてるけど探しに行くか……。」
休憩を終わりにし、俺は重い身体を動かしてその場を後にした。
適当に森中を練り歩いていたら水の流れる音が聞こえてきた。道中血の臭いで魔物が寄ってくるかと思ったが、見た目がアレなだけに幸いにも近づいてくる生き物は居なかった。
「おし、着いた〜。早速、水浴びするか―。」
俺は水が綺麗に透き通ってる川を見つけ、服を脱いで水に浸かった。
「は〜生き返るわ〜。水も美味いし、汚れは取れるし川様々だな。てか、髪が真っ白になってるし。余りのストレスに変色したか。まあ、あんな目に会えばそうなるのも当然か。」
浸かること十分。大分汚れが落ちた俺は川を出ようとしたが、未だに身体から血が流れていた。
「ん?なんだ?」
よくよく見ると小さな魚達が俺の身体を食いちぎっていた。
「なるほど、お前らの仕業か。丁度いい、腹減ってたんだよな。俺もお前らを食うとするわ、これでウィン・ウィンの関係だな。」
俺は俺の身体を食いちぎっていく魚達を目掛けて手を伸ばした。するとその手が食われてしまい、魚達に逃げられてしまう。
「んのやろぉ、俺も食わせろ!」
再び手を伸ばすも、また食われていく。そして今度は足まで食われてしまった。
「うわっ!ちょ、足が無くなっ…。」
手足が無くなった俺はそのまま川で転んだ。
「うわっぷ。い、息が出来な…。おぼ、溺れる……。」
息を吸おうと手を伸ばすも、伸ばした先から食われて思う様に水を掴むことが出来ない。ならばと足で立ってその場を離れようとすると、これまた足も食われていく。
「がぼっ、ごぼぼ、ぐぅ、が。」
こうしている間も肺の中に水が入り続けて思う様に体が動かなくなって来た。
一難去ってまた一難。窒息により薄れる意識の中でまたこれかと思いながら川の流れと共に俺はどこまでも流されて行った。
この時流されて行ったのが森の更に奥深い場所で、そこで迷い続け永い時を森で過ごすことになるとは思ってもいなかったのだった。
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