第8話「ある彼女について」(あさひside)
愛花とカフェに来ていた。
目的はワトソンさんの調査を聞くため。
「どうだったの、私の身辺は?」
愛花が訊く。
「あぁ。詳しく調べさせて貰ったよ。で、一つ気になる人物がいた」
ワトソンさんがある書類を見せてくる。
「野間裕子という人物なんだが、幼い頃に母親と父親の両方を亡くしている。どちらも死因は癌なんだが、その後が気になった」
「それって?」
「彼女、中卒の状態で歴が止まっている。そして、最近亡くなっている」
「え?」
思わず呆けた声を出してしまう。愛花も同じく、呆けた声を出していた。
「え、え? だ、だって、この前、私、普通に会いましたよ? どうして」
「役所によれば、首を吊って自殺したらしい」
「そ、そんな・・・・・・」
「驚いたよ。だけど、もう一つ驚くべきことがある」
ワトソンさんがそう言い、私は顎をしゃくる。
「野間裕子という戸籍を、買っている人がいる」
「え? 戸籍って買えるの?」
私はそう疑問に言うと、「そうだ」とワトソンさんは言う。
「まあ日本国内はないと思うけど。買っている人となると、大体はヤクザだ」
「なるほど。で、その彼女の戸籍を買った人って」
「残念だが、追うことはできない」彼は首を横に振る。
「そうですか・・・・・・」
そう私が溜息をつくと、ある写真を目にする。
「うん?」
「どうした?」
「そう言えば、この人どっかで見たことあるなぁ、って」
「気のせいじゃないか?」
「う~ん。でも、この前、本を落としていったし」
「本?」
「ほら、この本」私はあの時あの女性が落としていった本をテーブルに出す。
「読んだことのある本だな~・・・・・・。でもなんで、これを落としていったんだ?」
「さぁ~・・・・・・、分からないです」
「まあともかく、事件捜査に戻ろう。ここで立ち止まっている暇なんて、ない」
ワトソンさんが忙しなく片付けているのを見て、「何か進展があったの?」と私が言う。
「犯人が思われる指紋が、検出された」
思わず私は愛花と顔を見合わした。
「それって、犯人が油断したという証拠ですか」
「かもな。そして同時に」ワトソンさんが言葉を切って、また口を開く。「犯行期間が短くなるかもしれない」
ワトソンさんは荷物と伝票を持って、この場を後にした。
愛花の気持ちを和らぐ為に、公園に来ていた。
「大丈夫?」
私はブランコの隣に座り、落ち込む愛花を見る。
「うん、大丈夫」
暫しの間、沈黙が降りる。
鉛のような空気感が漂う中、私は愛花の友人である野間裕子について考えていた。
なぜ、彼女は自殺をしたんだろう。
そして、彼女らしき人物はなぜ私のところへ現われ、本を落としていったんだろう。
どういうこと。
彼女は何がしたかったの。
どことなく、目線がこの公園に佇む浮浪者に目がいく。
彼は、何の為に生きているんだろう。
すると、突然稲妻が身体に通った感覚がした。
もしかして。
そうか、そういうことね。
「愛花」
「ん、なに」
愛花が私の方へ向く。
「事件が解決できるかもしれない」
「それは、本当・・・・・・?」
愛花がそう言うと、私は深く頷く。
「・・・・・・そうだ。あれ、やってみてもいいかな」
「どんなの?」
愛花が促してくれると、私はブランコから立ち上がり、愛花の目の前に立つ。そして、スカートの端を持ってお辞儀をする。
「・・・・・・どうした?」
「さてさて、紳士淑女の皆さん。お待たせ致しました。全ての謎が提示されました」
私は唇を舐めて、あちこちを歩き回る。
まるで、某ドラマのあのシーンみたく。
「この一連の事件、なかなか手強い感じでしたが、手掛かりを見つけてしまえばもうこちらのものです。さて、皆に考えて貰いたいことはあの事です」私は公園に佇む浮浪者を指差す。
「浮浪者? どういうこと」
愛花が首を傾げる。が、私は気にせず話を進める。
「そこまで考えてこそが、名探偵である所以ですよ。愛花さん」
「・・・・・・所以って」
愛花が苦笑する。
「さて、事件解決に向けて動き出しますか」
私は公園を立ち去る。
その後を、愛花が追いかける。
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