第二十四話 入り込む牙
ーーーー佐斗葉視点ーーーー
翌朝。久しぶりに布団で寝れた事もあってものすごい快眠を味わえた。
祐葉と一緒に居間へ向かうと、既に貴船と雪姉ぇがいた。
澁鬼は日課である鍛錬を、恵里菜は気まぐれで散歩に行くと言い出したらしいが、獣人が潜んでる可能性がある場所での単独行動は危険なので朔矢も同行することになったが、前回朔矢は振り切られた過去があるので、澁鬼も鍛錬を終え次第、二人に合流する事にしたらしい。
うん。実に妥当な判断だ。
恵里菜は自由気ままにフラッと単独行動をしてしまうことがよくあるが、それでいて不思議と獣人に襲われた事は今まで一度もない。まぁだからこそ恵里菜のフリーダムさに拍車をかけているんだろうけど...。
「あ、佐斗葉くんたちおはよう〜」
ゆっくり開いた戸から寝起きと思われる純平くんがあくびをしながら居間へやってきた。
僕よりも先に祐葉が純平くんに挨拶を返す。
「よー おはよう純平、キエさんはどうした?」
「おばーちゃんなら朝の狩りに行ったよー。日課だからね」
「散歩みたいなテンションで言うのね...」
雪姉ぇが若干笑顔を引きつらせながらツッコむ。
「おばーちゃんはいつもそんな感じだよ。朝に狩りで昼も狩り、夜になる前も『ひと狩り行こうか』って猟銃持って颯爽と出ていくよ」
「周回イベントでレアなドロップアイテムでも手に入れようとしてるのか...?」
そうツッコむ貴船はもう笑顔すら作れていなかった。真っ直ぐ受け入れるには難しすぎる現実を突きつけられているのだから、何かに例えてツッコンで行かないとやってられないのだろう。その気持ちは僕もよく分かる。
というか一日に3回も山に登るとかとんでもないハイパーおばあちゃんだなぁ..。
僕たちは予めキエさんが用意してくれた朝ごはんの準備を純平くんと行う。昨日の鍋の残り汁を使って雑炊を炊いてくれていた。いかにも出汁を吸ってそうな良い色合いだ。
食事をしながら改めて今日の段取りを確認し、恵里菜 朔矢 澁鬼の帰りを待つ事にした。
ちなみに晴樹くんとは朝の待ち合わせ場所をキエさんの家の前にしたので、きっとじきに来るだろう。
僕たちは今日も無事に挨拶周りがスムーズに行くことを願いながら熱々の雑炊を口に運んだ。
ーーーー澁鬼視点ーーーー
「さて、そろそろ行くか」
俺は独り言にしては少々ボリュームのデカい声で呟いた。
素振りや走り込みなどの日課の鍛錬を終え、朔矢と恵里菜が向かったであろう山道を見つめる。
恵里菜の事だ、また突然の思いつきで朔矢を振り切ってどっかへ行きかねない。そうなったら面倒なのは朔矢の方だ。いじけられたら後が長い。俺一人には荷が重すぎる。
だからといって鍛錬の内容を短縮する訳にはいかない。ちょっとでも自分に甘えればすぐツケが回ってくる。そうなったら後悔するのは自分だ。いつ何どきであれ、自分自身への修練を怠らない者が、笑って終われる未来を手にするんだ......!!
俺は自分に言い聞かせるように心で強く唱え、二人が向かったであろう方向へ走り出した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「妙だな......」
枯れ葉をサクサク踏みしめながら山道の中腹ぐらいまで入って来たが、俺は違和感の余りまた独り言が出た。
二人がここへ来てからさほど時間は経っていない筈なのだが、全くと言っていいほど気配がしない...。
道は一本しかないから迷う筈は無いし、走って行ったような跡も見られない。
それに二人でいるはずだから、歩いていたら途中で揉めてる声ぐらい聞こえるだろうと思っていたが、それすらもない。
獣人に襲われた可能性も考えたが、周囲に折れてる枝や抉れてる幹なども見当たらない。
ズチャッ......
「んっ...?」
俺は足下の感触に違和感を感じた。
先ほどまでサクサクと地面を踏む度に音がしていた枯れ葉からいきなりぬかるみに落ちた葉っぱを踏んだような感触に変わったのだ。
しばらく良い天気が続いたこんな冬に、しかも山の中腹でいきなりだなんて何か妙だ...。
俺は最大限に警戒をしつつゆっくりと前へ進んでいった。
それから間もなくして、数十メートル先に俺は信じられない光景を目撃した。
「なっ......!!!!!!???」
人が倒れている................!?
俺は一瞬驚きのあまり固まるが、我に返り急いでその場へ駆け寄る。
「おい!どうした!? おいっ!!!」
駆け寄る前から既に誰かは分かっていた。だが、この光景は今の俺には余りにも受け入れがたかった。
俺は倒れている人物たちを抱き抱え叫ぶ。
「しっかりしろ!!おい!!何があった!?恵里菜!!!朔矢!!!おい!!!返事しろ!!何があったんだよーーーー!!!??」
俺が後から追いつこうとしていた二人は、狂おしいほど綺麗な顔で、濡れた落ち葉に受け止められていたーーーーー。
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