第二十五話 絶望と現実、そしてーー


ーーーー佐斗葉視点ーーーー


「佐斗葉、お前もう少し食うか?」


「いいの?じゃあもらっちゃうね」


僕は貴船から雑炊をもらった。美味しすぎてもう箸が止まらない。


貴船は相変わらず少食で基本的に誰かに食事を渡している。いつもほとんど手をつけない。それでいてあんな身長高いから、祐葉からすんごい恨み買っちゃうんだけどね...。


「ご馳走様でした〜」


僕たちは食べ終わったお皿や茶碗などを純平くんと一緒に片付ける。


すると玄関の方からガラガラッと扉が開く音がした。


「おはようございまーす伊斯波でーす」


晴樹くんだった。僕たちは玄関に迎えに行き、純平くんが晴樹くんを居間に案内する。


「あれ?そういえば何人か見当たりませんが、どうしました?」


晴樹くんが僕たちに尋ねる。今いない3人は、散歩1人とお目付け役2人でちょっと出かけていると説明した。


「そういう事だったんですね。何も無ければ良いのですが...」


晴樹くんは少し心配そうな顔をするが、僕たちは普段の恵里菜のフリーダムさと生還率の高さをを知っているので、心配は無いと言ったら嘘になるが、そこまで重くは捉えていない。


そんなこんなで晴樹くんや純平くんとしばらく喋っていると、ガラガラガラッ!!と勢い良く扉が開くのが聞こえた。


「おいっ!!皆っ!!来てくれ!早く!!!」


あまりの声の大きさと勢いに僕たちは肩がビクンッと上に動いた。この声は澁鬼だけど...一体どうしたんだろう...?


僕たちは急いで玄関に向かうと、目を疑いたくなる光景が飛び込んできた。


玄関の扉の前には、グッタリとして意識のない恵里菜と朔矢を抱える澁鬼の姿があった。


恵里菜をお姫様抱っこをするように抱き抱え、朔矢を澁鬼の能力のである磁力を使って、自身の背中に携えている刀と朔矢の背中をくっつけている。そうする事で二人同時に運んで来たのだろう。


二人をゆっくりと床に下ろす澁鬼。


「朔矢、手荒くなってしまってすまない...!」


澁鬼は心底申し訳なさそうに言う。


「澁鬼、一体何があったの!?」


雪嶺が澁鬼に状況説明を求めた。


「俺が二人に追い付いた時にはもうこの状態だったんだ...悪い...俺が普段の鍛錬をちゃんとこなさねばならない事に拘ったばっかりに...!!」


澁鬼は悔しそうに奥歯を噛み締めているが、澁鬼に責任は無い。とりあえず今は二人の状態を正確に把握する事が先だ。



幸い二人とも脈はあり、呼吸もある。

だが異様なまでに体温が高い。


僕たちは急いで二人を寝室に運び、水と氷を用意して二人を冷やした。


「何の騒ぎだい?」


朝の狩りから帰ってきたキエさんが僕たちの慌ただしい様子を見てすぐにやってきた。


僕たちは急いで事情を説明する。


「ちょいと見しとくれ」


キエさんはあらかた聞き終わると、二人をじっくり観察した。二人の呼吸と脈、瞳孔など、様々な箇所を見る。


「フン...なるほどねぇ、しかし妙だな」


キエさんは何か分かったのかボソッと呟いた。


「この二人は熱中症、もしくは脱水の症状が出ている」


「熱中症に脱水!?こんな冬場にか!?」


祐葉は驚いた様子で声を上げるが、それは僕たちも同じだ。


「アタシもどうしてこの二人がそんな症状になってしまっているのかは分からん。だが意識が無い以上、どうにかして水分を摂取させねば命に関わる」


キエさんは冷静に続ける。


「意識が無い以上、この子達が自分で水分を摂取するのは難しい。本来ならすぐ点滴などで対応するしかない。だがこの集落は、かつての異能力者共の大量殺戮で、集落にあった唯一の診療所は無くなった。ここからどこか別の町の病院に行こうにも数時間じゃ済まない距離だ。それまでにこの子達が持つ保証は無い」


僕たちは言葉が出なかった。


余りにも絶望的で、どうする事も出来ない現実。


「そんな...俺が...俺が......!!!」


澁鬼は今にも泣きそうな顔で頭を抱えてうずくまる。雪嶺が澁鬼の背中にそっと手を置くが、良い言葉が見つからず困っている様子だった。


僕たちのグループは回復の異能を持つ者がいない。


このまま二人がゆっくり息を引き取っていくのを見るしか無いのか...?


祐葉が小声で「クソッ......!!」と吐き捨てるが、目の前の状況を受け入れきれ無い様子で、「何とかなんねぇのかよ!?」とキエさんに当たっている。


あの貴船でさえもこの現状をただじっと見る事しか出来ない。


僕たちは深い深い絶望に落とされた。今この場の空気は黒く重く、今にもこの家ごと闇に沈んでしまいそうだった。


するとそんな空気を破る一つの声が通る。晴樹くんだった。


「キエさん、水分をどうにか摂取出来れば、助かる見込みはあるんですよね?」


「んっ?あぁ、今すぐに摂取出来れば恐らく死は免れると思うが」


「では、ボクに考えがあります。純平くん、大きめの器に麦茶があればを大量に入れて持ってきてくれますか?」


「うん、分かった。麦茶ならいっぱいあるから取ってくるね!」


「えぇ、お願いします」


晴樹くんはそう言って二人が寝ている布団の前に近づき座る。


程なくして純平くんが、直径が肩幅ほどはある大きなボウルに麦茶をなみなみ入れて持ってきた。


そして晴樹くんはそれを自分の真横に置き、ボウルの前に開いた手をかざし目を閉じた。


水生糸アクアフィールム...!!」


晴樹くんが何かを唱えると、麦茶の水面から細い糸のようなものがスゥーっと浮かび上がったのだ。


「「「「「「!!!!!??」」」」」」


その場にいる誰もが言葉を失った。


そしてその麦茶で出来たと思われる糸はゆっくりと恵里菜、朔矢の口元へ運ばれた。


「多分これで大丈夫です。糸を口から食道を通してそのまま胃へ繋げました。これで二人に水分は継続して供給されますし、意識が戻れば本人がこの糸を噛みちぎってもらえればそれで術は解除されます」


晴樹くんは優しい顔で説明するが、僕たちの自身を見る目をすぐに感じ取ったのか、サッと顔を背けた。


しかしそこからすぐに観念したような顔で僕たちに向き直り、再び話し始めた。




「黙っていてゴメンなさい...ボクは、異能力者なんです.........」






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