第二十三話 何かが動き始めた夜


「めっちゃ美味しい〜」


恵里菜はご機嫌でご飯をパクパク食べている。


あの後お婆さんが僕たちの分まで夕食を追加で作ってくれたのだ。


囲炉裏を囲んで皆で鍋をつついているが、出してくれた鍋がなんとイノシシ肉を使った鍋だった。冬の時期に味噌風味の味付けに身体がじんわりと温まるのを感じる。イノシシも脂が乗っているけど全く臭みがない。正に絶品だ。


「おばーちゃんは今も山に登ってシカやイノシシやクマをとってくるんだよ」


純平くんはお婆さんが現役の猟師だと教えてくれた。80歳超えて現役とは予想以上にスーパーお婆さんなのかもしれない。


「シカやイノシシを片手で担いで帰ってくる事なんてしょっちゅうなんだよ。だからおばーちゃんの服いっつも血まみれで臭いも凄いんだ」


どおりでこの屋敷何となく獣の臭いがする訳だ...。というか単独でそんなに狩ってくるとか名手も名手じゃん...。


「ここはしょっちゅう猟をせにゃこの辺一帯の作物が食い荒らされちまうからね。爺さんが大事に守ってきた土地だ。それを守り通すのがアタシの役目ってもんさ」


お婆さんは何の気なしにお茶を飲みながら言った。

立ち退かない理由はそう言った事もあるんだろうか。


「ここまで来たからにはアタシも名乗っとくよ、アタシは赤曽根あかそね キエ、この子は孫の純平じゅんぺいだ。」


そしてキエさんは今はここに純平くんと二人暮らしだということも教えてくれた。


「いや〜すみませんねぇボクまでご馳走になっちゃって」


「何だい伊斯波 いたのかい」


「あれぇ〜?ボクってそういう扱いですか〜...?」


一緒にちゃっかりご飯を食べてる晴樹くんに対してキエさんは冷たく当たる。晴樹くんは思わず苦笑いを浮かべていた。


しかし一気に八人増えても普通に夕飯が用意出来る事に驚いたが、普段から大きいイノシシやクマを狩ってくるから何も問題ないとキエさんは言っていた。


「この後もお家周ってくの?今日は遅いからまた明日にしたら?」


夕飯をあらかた食べ終わると、純平くんは僕たちに提案してくれた。


確かにもう日も暮れてる中で見知らぬ人達が訪問なんてしたらいくら晴樹くんがその場にいるとは言えより怪しく見える。


「後はどこを周る気なんだい?」


キエさんは僕たちに聞く。とりあえず僕たちはこれまで周ったお宅を一つずつ挙げ、後何軒周れば全員に声を掛けた事になるかキエさんに聞いてみた。


「となると後は三軒だね。陣外じんがいのトコと楠河くすかわ、後は北條ほうじょうの姉妹宅を周れば、とりあえず全員に声を掛けた事になる」


残りは三軒、そして声を掛ける人数は四人、つまりこの集落には人が住んでいる家は八軒で、現在10人が暮らしている事になる。


とりあえず明日の周る順番を晴樹くんと相談し、最初は陣外じんがいさんという家を当たることにした。


そして打ち合わせを終えると、晴樹くんは自分の家へと帰っていった。


「この家は幸い部屋も布団もそれなりにある。好きに使ってくれて構わんよ」


キエさんは無愛想ではあるものの、最初の対応が嘘みたいに僕たちを迎え入れてくれた。


部屋は僕と祐葉、恵里菜と雪姉ぇ、朔矢 貴船 澁鬼の三グループに分かれて寝る事にした。


キエさんと純平くんは普段同じ部屋で布団を隣に並べて一緒に寝ているそうだ。


僕たちは久しぶりに布団で寝れる事が嬉しく、あっという間に眠りについてしまった。


明日には集落の住人全員に挨拶周りを終え、ここに訪れたあの方たちの誤解を解くために少しでも調査を進められたらと願うばかりだった。








ーーーー獣人視点ーーーー


「やれやれ、厄介な集団が来たものだよホントに」


突然現れたよく分からない7人組、最初はただの人間の7人組かと思ったがどうやらそんな事も無かったようだ。正直何故あの集団がグループとして成り立っているのかは分からないが、無視出来ない存在である事は間違いない。


用心するに越したことは無い。向こうに怪しまれる前に早めに動いた方が良いだろう...。



「その為に、まずは一人目...」








先ほど殺した一人の住人を横目にそう呟いたーーーーー

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