第十話 持たざる者のやり方



旅を再開し、今は休息の時間。僕は貴船に話があると告げ、人気のない所まで一緒に来てもらった。


「まぁ、気持ちは分からないでも無いな」


貴船は僕の話を聞き終わると、ゆっくり口を開く。


僕は貴船に戦闘で自身も戦いたいと話した。


僕も皆を守りたい。前回みたいに守られるどころか見てるばっかなのは申し訳なさしかない。


「だが佐斗葉」


貴船は僕の目を見て言う。


「お前は、自分の力を理解しているか?」


僕を試しているかのような言葉だった。


確かに僕には特別な才能がない。


持っている刀も普通で、そこから何かが起こる訳でもない...。


肉弾戦でも恐らくジリ貧になる。




ーーーでも、ここから力をつけていけばまだ分からない。持たざる者として生まれたからにはその環境全てを利用して強くなりたい......!!



僕は確固たる意志を貴船にぶつけた。



「僕に特別な力が無いことは分かってる...!!でも、その環境に甘えて、僕たちだけが守られながら安寧の地に身を預けても、僕自身の心がそれを許さない......!」


チームなのに、仲間なのに、皆だけが傷ついて、そんな世界は、僕はもうまっぴらごめんだ。


「『今』に逃げてちゃダメなんだ!!僕は前に進みたい!!どんなに茨の道だとしても、その棘を斬ることはしないで欲しい......!!!」



これが僕の想いの全て。僕は例えどんな困難でも、鬼のような修行でも、絶対に耐えてみせる......!!


貴船は僕の眼を見ると、一瞬何かを考えたような顔をし、視線を落とした。


そしてふーっと息を吐き、僕に告げる。


「お前の意志がそうなのであれば、その気持ち自体は否定はしない。だが、時に現実や過去が否定してくることを忘れるな」


そう言って振り返りもせず去っていった。



これは......認められたって事で良いのかな.....?


貴船の言い回しはいつも分かりにくいけど、否定はされなかった。


僕はとりあえず自身の想いが通じたことに安堵し、より鍛錬を積むことにした。


「とりあえず今から澁鬼の修行に同行しよかな」


僕は一人呟きながらその場を後にした。











ーー祐葉視点ーー


「貴船!!」


俺は佐斗葉との話し合いが終わった貴船を問い詰めた。


「お前...!!佐斗葉を前線に出すって..話が違うじゃねぇかよ......!!」


俺は先程の話の内容が信じられなかった。


「やっぱり話し合いの前から内容を察してたようだな。流石双子だな、テレパシーでもあんのか?」


「話を逸らすんじゃねぇ!!」


佐斗葉が貴船に話しかけた時に嫌な予感はしてつけてみたが、話の内容は大方予想通りだった。しかし、貴船がその要求を呑むなんて思ってもみなかった。


「アイツ自身が言っていた。『今に逃げるな』ってな。実際、現実から逃げていたのは俺たちだ、そうだろう?」


俺は言い返せなかった...。否定するものも何も無い。


だが、それで佐斗葉自身が傷つくかもしれない不安に我慢がならない。


「もし最悪の展開になったら俺たちが全力でカバーする。それも俺たちの責任の範囲内だ」


貴船はこんな時でも飄々として冷静な態度を崩さない。頼もしくもあるが、今はその飄々具合いが寧ろ腹正しく感じる。


「そして重要なのは、お前が冷静になる事だ」


貴船は少しトーンを下げた声で俺を真っ直ぐに見て告げる。


「佐斗葉に何かあった時、お前が冷静さを失えば、佐斗葉よりも先にお前を抑えつけないといけなくなる。お前は佐斗葉を身を常に案じているが、冷静さを失えばそれはただの暴走だ。」


少し恐怖すら感じる貴船の威圧に俺は目を逸らすことさえも出来なかった。


「大丈夫だ。俺たちは仲間だ。お前一人で戦っている訳じゃない。これは、俺たち全員の戦いだ」


いきなり喋りがいつものトーンに戻った思ったら、貴船はそのまま振り返りもせず去っていった。



俺はその場に立ち尽くす。


きっと俺が一番怖かったのだろう。佐斗葉の傷が広がることに。


ただ遅かれ早かれ、過去と向き合うその時はいつしかやってくる。それを俺たちは遠ざけていた。





俺たちは知っている。






佐斗葉は過去の経験を、今の生活をする事で手に入れた、現在の穏やかな性格の仮面を被って、過去を封印している事に......。





俺は懐から一枚の写真を取り出した。


俺と佐斗葉が写っている、まだ幼い頃の写真だ。











かつて俺と佐斗葉は.........










髪色も全く同じの、見分けのつかないそっくりな双子だったーーーーーー

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