episode 022

私は平然と立ち去ろうとしたが、SPは立ち上がり、私の後をゆっくりと追いかけてきた。

こうなったら仕方がない、私は全力で走り出した。

こういう時にTHE NORTH FACEのバックパック、ワンダレイクパック20は非常に役に立つ。

小ぶりでチェストとウエストにベルトが付いているため、体に固定しやすく、あまりバックパックを背負っている不利さを感じることはない。


私が走り出したとたん、SPは私が何かしたことは間違いないと自ずと感じ、全力で後を追ってきた。

が、今度は町田が倒れた。

SPは一瞬ためらったが、SP本来の役目を思い出したらしく、全力で町田に駆け戻っていった。


思わぬ邪魔がはいったものの襲撃は成功したので、あとは逃走するだけだ。

もはや地下鉄を利用しないでなどと言っている場合ではないので、病魔に侵された私の体力が持つか不安はあったがそのまま走って名古屋市営地下鉄市役所駅に向かいトイレの個室に入った途端、こらえきれずに戻してしまった。

呼吸がしずらく、嫌な汗が額から溢れてきた。

体力の衰えは、もはや隠しようのないレベルまで来ている。

口を拭って息を整え、予めバックパックに用意しておいたハーフパンツと白いTシャツというラフな格好に着替え、キャップからハットに替え、バックパックからFRAGMENT DESIGN × RAMIDUSの鮮やかなグリーンのナイロントートバッグに替えた。

追いかけてきたSPにも正面から顔を見られたわけでもないので、全身黒ずくめの格好の男を手配されてもしばらくはこれでごまかせるだろう。


私は地下鉄名城線左回りに乗り込み、2駅進み栄駅で地下鉄東山線に乗り換え、名古屋駅へと向かった。

9時過ぎに到着したので、乗り込む予定の9時39分発のひだ5号特急飛騨古川行までは30分近くあった。

この時間を利用して、名古屋駅構内のドトールコーヒーショップでコーヒーを飲みながら、スマートフォンを使って情報収集にあてた。

まだ、どのニュースサイトにも愛知県知事の町田が襲われた、もしくは死亡したという記事は見当たらなかったが、死亡しているのは確実なので、駅や空港などに警官が配置されるのも時間の問題だろう。

ここがアメリカならば、すでに駅や空港は検閲なしでは通行できなくなっているのだが、殺害されたのか自然死なのか確信が持てない状況なので警備も甘くなっているのかもしれない。

SPに追いかけられて逃走した人物がいて、知事とSPがともに急死したというのに、なかなかのんびりした対応だ。

しかし、用心するに越したことはない。

ひだ5号特急飛騨古川行に乗り込むまでは、何事もなかったように冷静に振る舞わなければ。

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