episode 023

9時38分、ひだ5号特急飛騨古川行の1号車自由席に乗車した。

別名をワイドビューひだというだけあって通常の電車と比べると窓が大きく、景色がよく見えるよう座席の床は20cm程上がっている。

あえて指定席を選ばなかったのは、なにかあった時に動きが取りにくいためだ。

車両は8号編成で、名古屋駅から高山方面へ向かう場合、8号車が先頭車両になる。

自由席は両側に2席ずつ、通路を挟んで1列に4席並びで、途中岐阜駅で進行方向を替え、東海道線から高山線に入るためシートの向きを変えられるようになっていいる。

電車内は、平日の午前中ということもあって5割程度の座席が埋まっているだけだった。

進行方向前から3列目のマド側の席を確保し、12時44分着予定の終着駅飛騨古川までの3時間あまりの旅をのんびり過ごすことにした。


車窓から景色を眺めながらも、周囲に気を配っていると岐阜駅に到着した時に、ホームの1号車付近に警官が二人立っていた。

どうやら少しずつ警戒が始まっているらしい。

おそらく1号車から乗り込み、8号車へ順に車内に手配中の男と風体が似ているものがいないか見て回るつもりなのだろう。


私は岐阜駅での乗降客に紛れて席を立ち車両半ばへ進み、岐阜駅から乗ってきた小学生くらいの女の子と母親が座っているシートの向かい側に腰を下ろした。

3人以上のグループがこの駅で降り、向い合せのシートがそのままになっているところに親子が座ったのだろう。

本来ならばシートを進行方向に直し1列ずつ使用するべきなのだが、ファミリーと思わせるために親子には警官をやり過ごすまではこのままで我慢してもらうことにした。

母親は怪訝な様子ではあったが、にっこり微笑みかけて軽く会釈すると、私が向かい側の席に座ることを許容してくれたようだ。

乗降客の最後に乗り込んできた二人の警官が程なく私の横を通り過ぎた。

探しているのは黒のジーンズに黒のTシャツ黒のキャップ姿でバックパックを持った一人の男なので、ハーフパンツに白いTシャツでトートバックを持ったファミリー風情には目もくれなかった。

まあ、今の段階では、現場から逃走した者が犯人かも確定できず、どの方面に逃走しているのかも掴めていないはずなので、警官も言われたままに指示された男に似た風体がいないかどうか機械的に確認しているだけのようだった。


思ったとおり警官二人は、10分程で到着した次の鵜沼駅で談笑しながらホームを歩く姿が確認できたので、私は再び席を立ち2席とも空いた席を見つけ窓際に座った。

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