episode 016
ハンドルとシフトレバー、ウインカーレバーの指紋を拭き取り、ナンバープレートを持参したフォールディングレンチセットで外して、キーをロックし、ナンバープレート、キー、財布、スマートフォンを背負っていたアークテリスクのHeliad 15L Backpackに入れてその場を立ち去った。
このような場合は、決して走ったりしてはいけない。
何事もなかったように歩き続け、15分程で最寄りのバス停まで行き。
その後路線バスを乗り継ぎ帰宅した。
この方法が一番安全だ。
電車や地下鉄は監視カメラがどこかにあるし、タクシーなどはもってのほかだ。
17時30分頃には自宅にたどり着き、いつものように私の帰宅を狂喜乱舞して迎えてくれた鼓太郎と散歩にでかけた。
ちなみに持ち帰ったナンバープレート、キー、財布、スマートフォンは、免許書と保険証を財布から抜き取りシュレッダーにかけ、残りは新聞紙に包んで不燃ごみとして処理した。
新聞紙に包んでおけば割れ物だと勘違いするだろうし、収集人がいちいち中身を確認するわけではないので明らかに不燃ごみではないものが袋の外から確認できなくて、一旦ゴミ収集車に入ってしまえば、下手にコンビニや駅のゴミ箱に捨てたり雑木林に捨てるより、はるかに確実に処分できる。
ただ、ピアノ講師がレッスンに現れずに電話もつながらず失踪してしまったわけだし、死体が発見されれば歯型から身元特定はされるはずで、殺人事件として捜査される日もそう遠くはないだろう。
あれから半月ほど経ったが、私の身辺には特に変化はなかった。
日本では年間8万人ほどが行方不明になっているので、ひとりのピアノ講師が失踪してしまったぐらいでは、たいして警察も本腰を入れていないのかもしれない。
実際に失踪しなくても、突然だれも知り合いのいないところで新しい人生を送ってみたいと思ったことのある人は、かなり多いのではないか。
が、別の意味では変化があった。
嘔吐や下痢を繰り返すようになった。
明らかに人生の終わりに近づいている証拠だ。
今までも処方されていた抗がん剤と痛み止めに加え、吐き気を和らげる薬と下痢止めが加わり、否が応でもそれを実感せずにはいられなくなってきた。
なので、次が最後の仕事と決めて臨むことにした。
仕事の、そして人生の最後を飾るべく、多少大物をターゲットにすることに決めた。
愛知県知事の町田英則。
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