episode 012

私は年に何度かクラシックコンサートを聴きに出かけるし、CDやダウンロードした曲も多数所有している。

一番のお気に入りは、アンナービルスマのバッハ無伴奏チェロ組曲。

ビルスマは、1972年と1992年の2回バッハ無伴奏チェロ組曲を収録したCDを発売しており、旧盤はバロック・チェロなので、ピリオド奏法的な不均等なリズムと小節単位 のテンポ・ ルバートなど、拍の粘りがあったり、出だしは弱く、途中で盛り上がる古楽特有の奏法も取り入れられているが、全体に自然な表現、滔々と流れる河のような雰囲気があり、私はこちら方が円熟味を増した新盤より好みだ。


しかしながら、性格にもよるのだろうが音楽というものは不思議なもので、たとえ好みのジャンルであっても自分が聴きたいと思わない時に他所から無理やり聴かされるのは苦痛でしかない。

私の場合、ベランダの窓を締め切れば、密閉性の高いマンションなので4フロアー離れていることもありそれほど問題なのだが、同じ高さのマンションの住民は堪らないらしい。

これもリュウくんの飼い主に聞いた話だが、中には頭がおかしくなるくらい悩まされている人もいるという。

確かにコンサートが迫っているのか、長い時は6〜7時間弾きっぱなしという日もあった。

クラシック好きでもきついし、ましてや嫌いなら耐えきれないというのも頷ける。

何度か管理会社を通じ、相手のマンションの管理会社に申し入れはしてもらったがいっこうに改善されなかったらしい。


プロなんだから、しっかり防音設備を整えて弾くのが当然のこととは思うが、ただでプロの演奏が聴けてラッキーだろうが、くらいに思っているのかもしれない。


そんな些細なことでと思うかもしれないが、ストレスや不満というものは、雪のように徐々に降り積もっていく。

この場合、解決するにはマンションを売って転居するのが一番だが、それを除けば立地もよく快適である場合、またそうでなくても、迷惑をかけられている側の自分がなぜ自宅を売ってまで転居しなくてはならないのだ、と思うのは当然のことだ。

積もり積もったストレスや不満はどうしようもない場合、おうおうにして殺意へ変化する。

実際に実行するかどうかは別にして、誰もがこいつを殺してやりたい!と思ったことが一度や二度はあるだろう。


警察に相談しても民事不介入の原則があるため、実際に事故や事件に発展しない限り力になってくれることはない。

つまりいくら神経がやられてしまうぐらい悩んでいたところで、相手に暴力を振るう、部屋に押しかけて相手が恐怖を感じるような行いをするなどしなければ警察は動かず、動いた場合はこちらが罰せられるというなんとも理不尽な構図になっている。


いつだったか、ベランダに干した布団を叩きまくるおばさんがご近所迷惑として問題になったことがあった。

いまどき布団を叩けばダニの死骸などが布団の奥深くに叩き込まれるだけで、かえって良くない行為だと認識する人が多い中、まだそんなことをする人がいるのか、と思った記憶がある。

でも実際、隣人にバンバン布団を叩かれたら結構辛いだろうと思う。

他にも、ベランダ喫煙するやつの気が知れない。

部屋の中で吸わないのは、家族に迷惑がかかるからだろう。

なのに近隣の他人には迷惑をかけてもOKと思うのはなぜだろう?

普通の神経の持ち主なら、身内には迷惑をかけても、他人には迷惑をかけないようにしようと思うのが当然のことと思うが。

喫煙習慣のない私だからそんなふうに考えてしまうのだろうか。

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