episode 011

一ヶ月ほどが経過したが、特に私の周辺は変わらぬ日常を送っていた。

刑事が聞き込みに廻っているとか、張り込みをしているということもなく、まだしばらくは安心なようだ。

ターゲットと私の接点がないので、目撃情報や監視カメラの映像、もしくは私を特定するに至る遺留品がなければ簡単に捕まることはない。

日本での殺人の9割近くは親族、または面識者によるものだ。

当然、警察もまずはその線疑い、同時に現場周辺の監視カメラの映像分析や目撃者を地道な努力で捜査し続ける。

殺人事件なので、日本の警察も力を入れるだろうし、時間はかかってもいずれは私にたどり着くことになるだろう。


これがニューヨークやロスアンジェルスのスラムで起きた麻薬絡みの殺人なら、捜査も手ぬるいし、ほぼ犯人が捕まることはない。

が、ここは日本だ。

私の余命も考えて、次を急ぐことにした。


私の居住するマンションに隣接したツーフロアー分低いマンションがあり、最上階の角部屋に暮らす私のルーフバルコニーからは、その屋上が見渡せる。

私の居住するマンションに比べるとグレードはそれほど高くなく、築年数も20年ほど経過しているようだが、オートロック機能は付いている。

隣接マンションとの間隔は10mほどあり、私の居住するマンション、コンクリート塀、隣接するマンションの通路、そして隣接マンションといった状況だ。

通路はエントランスにつながっていて、ルーフバルコニーから見下ろせば人の出入りがよく分かる。


その隣接するマンションの最上階よりもひとつ下のフロアーの角部屋。

つまり私の居住するフロアーから見ると4フロアー分下の、こちらのマンション寄りの角部屋からピアノを弾く音がよく聞こえてくる。

季節が良い春秋は、窓を開けて弾いているらしく4フロアー離れている私のところまでまあまあの音量で響いてくる。

弾いているのはクラッシクの曲で、なかなかの腕前だ。

リュウくんの飼い主によると、どうもピアノの講師をしながら、たまに市民会館大ホールでコンサートをおこなうオーケストラにも参加しているらしい。

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