episode 010

近くに駐車中の車には、人がいないのは確認済みだ。

まわりにも人気はない。

自分が狩られるのも知らずに、哀れな男だ。


どうやら猫は素早く逃げたらしく、2頭のドーベルマンが獲物を逃して悔しいのか、吠え続けている。

クズ野郎は、ドーベルマンの首をポンポンと軽く叩き、なだめている。

すぐに次が見つかるさ、といったところか。

ドーベルマンが落ち着いたところで、クズ野郎御一行は次の獲物を探すかのようにゆっくり進み始めた。


私はXC90 Rechargeの運転席側の窓を開け、助手席に移動して、スリングショットが車内に収まる形で、クズ野郎が真横を通過するのを待った。

そして5mほど離れたところを通過するクズ野郎のこめかみに、丸く小さな石の礫を一流のプロの技で叩き込んでやった。


2頭のドーベルマンは、状況が飲み込めないと見えて、いきなり倒れ込んだクズ野郎に鼻先を近づけてしばらくクンクンとしおらしい声を出していたが、そのうちその場を離れていった。

まあ、どうせ愛情を注いでもらっていたわけではないだろうから、自由になれて嬉しかったのではないか。


犬たちが去ったあとクズ野郎に近づくと、こめかみに痣ができ多少へこみができているので、死んではいないが脳震盪を起こした状態だ。

もっとじわじわと苦しみを与えて殺すべきだが、大声を出されたり人に見られるとやっかいなので、せめてと思い、園芸用のグローブをはめ墓地の石段から小玉のスイカくらいある石を引き剥がしてきて、仰向けに倒れているクズ野郎の顔面に叩きつけた。

クズ野郎の頭部は、スイカのようにグチャッと割れて飛び散った・・・ら良かったのに、人間の頭蓋骨はぐちゃっと割れてしまうほどやわではないので前歯が上下数本折れ鼻が潰れ顔面がひしゃげて軽く陥没する程度ではあったが、平和に人間なら戻してしまうほどには惨たらしい姿となってくれた。

このまま放置して、辛い残りの人生を歩ませて猫たちの償いをさせるという選択もできなくもなかったが、もしも傍らに停まっていた車や私のシルエットなどを覚えていると面倒なので、クズ野郎がかけていたサングラスのつるを眼球から脳に刺さるように深く押し込んだ。

これは、CIAで身につけた道具を持っていかないときの典型的な殺し方の一つだが、脳を突き刺すことにより確実に息の根を止めることができる。


実行した翌日はあいにく強い雨が叩きつける空模様だったので、翌々日に鼓太郎を連れて平和公園に散歩にでかけたときに、ちびちゃんが元気に歩いているのを見たときは柄にもなくうるうるしてしまった。

私にもこんな感情が残っていたのは、自分でも意外だ。


犯行現場はトラバリケードテープで囲われ、ブルーシートで覆われていたが、メタセコイヤ広場では今日も親子連れが遊びに来ていて日常的な光景が広がっていた。

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