episode 005

矛盾を感じるかもしれないが、私は日本人としてのプライドを持ち続け、日本の行く末を大いに憂う元CIAエージェントなのだ。


そんな私をよくCIAが開放してくれたと思うだろうが、私のような人間を一生組織に縛ったり、ミッション中に都合よく始末したりできると思うか?

反撃を食らったらスノーデンショック程度では収まらないことはCIAも認識している。

かといって、同僚に始末させれば、その仕事を請け負った同僚は、次は自分か、と当然考える。

そんなリスクを犯すのなら、十二分に金を与えて生涯監視下に置いておく方が得策なのだ。


アメリカの大統領経験者は、生涯シークレットサービスがつく。

護衛という側面もあるが、ようは監視下においておくことができるからだ。


私の場合はシークレットサービスというわけではないが、CIAの情報網を使えば、電話やネットの監視は容易だし、おそらく定期的に元同僚がそれとなく監視に来ていると思う。

ひょっとすると同じマンションの住人に紛れ込んでいるかもしれない。

当然、私の病状も把握されているので、余命がつきた暁には本部では肩の荷が一つ下りたとシャンパンで乾杯することだろう。


充実した暮らしを7年ほど平穏に送っていた私が突然の余命宣告を受け、ふっと考えた。

あと残り僅かな時間で、何をしたら良いのか?

このまま静かにこの世を去る選択肢もないわけではないが、一抹の寂しさが心をよぎる。

一般的な人が余生を送ることを考えた場合、これまでのキャリアを活かしてなにかできないか、と考えるのではないだろうか。

バスの運転手なら、幼稚園の送迎バスの運転手になるとか、教師なら塾講師になるとか、サッカー選手なら子供たちにサッカーを教えるとか。

では、私のキャリアでできることはなにか?

当然、人を殺すことだ。


というわけで、私は残りの時間を使って人を殺すことにした。

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