第46話 後輩の思惑
俺は、家庭科準備室で、恵兎ちゃんと一緒にアルバイト求人を探していた。
「接客は避けたい感じ?」
「そうですね、コンビニバイトは大変そうなのでちょっと……」
「なるほどね、じゃあコンビニバイトは外して探してみるよ」
俺もスマホを開いて、アプリでアルバイトを検索してみる。
「おっ、スーパーの品出しのバイトがあるよ? 週一からでいいみたいだから、ここはどうかな?」
「うーん……そうですね」
恵兎ちゃんの反応はイマイチだ。
「じゃあ、こういうのはどうかな?」
次に見つけたのは、ショッピングモール内に入っているアパレル店のアルバイト。
「ショッピングモールは休日混みそうですよね」
「……恵兎ちゃんは、楽にバイトしようとしてるの?」
「だって、出来るだけ簡単なのに越したことはないじゃないですか」
この子、意外と抜け目ない思考している……!
「じゃあ、恵兎ちゃんが思う簡単そうなバイトって、具体的にはどういうのを想像してるの?」
「そうですね……」
恵兎ちゃんは、しばし顎に手を当てながら黙考する。
そして――
「先輩の銭湯の番台とか……ですかね」
「おい待てこら。俺の仕事が楽そうに見えるだと?」
「はい」
何の悪気もなく言ってくる恵兎ちゃん。
まさか、俺の仕事が楽だと思われていたとは、軽くショックである。
「ど、どうしてそう思うの?」
俺はにこりと顔を張り付けながら、恵兎ちゃんに尋ねてみる。
「だって先輩、女湯覗き込んで鼻の下伸ばしてるだけじゃないですか」
「伸ばしてないわ! ってか、覗き込んですらねぇっての!」
「えぇー! 心の妄想の中で覗き込んでる癖にぃー」
「の、覗き込んでないし⁉」
「本当ですかぁ?」
訝しむ視線を向けてくる恵兎ちゃん。
いやいやいや、確かに想像しちゃうときもあるけど、常日頃してるわけじゃないからね⁉
「言っとくけど、松乃湯は今アルバイト受け付けてないから却下だぞ」
「ちぇーっ……」
この子、もしかしてアルバイトを求人サイトで探そうというのはブラフで、俺が誘ってくれるのを待ってたのか⁉
なんという計算高い後輩なんだ⁉
改めて、後輩の腹黒さに驚きつつ、俺は改めて恵兎ちゃんに向き直る。
「あのね、恵兎ちゃん。働くって、大変だからこそ、対価としてお金を得るんだよ?」
「知ってますよーだ。そんなお説教なんていらないです」
「うぐっ……じゃあ、どうしろと?」
「私を褒めてください」
大変素敵な笑顔で、言われてしまった。
褒めろと言われても、具体的に何を褒めればいいの?
「ほら先輩、早く、早く!」
尻尾を振る犬のように、きらきらとした目を輝かせてくる恵兎ちゃん。
俺は頭をフル回転させて、恵兎ちゃんの期待に添えるような言葉を捻りだす。
「恵兎ちゃんは偉いね。郁恵さんのためを思ってそこまで決意出来て」
「はいっ!」
「アルバイトも探してて偉いぞ」
「うん!」
どうやらお気に召したようで、にちゃーっとした笑みを浮かべる恵兎ちゃん。
加えて、俺が恵兎ちゃんの頭へ手を伸ばそうとしたところで、家庭科準備室の扉が開かれる。
「お前らー、今日もちゃんと活動して……って、二人で向き合って何してんだ?」
「いつも恵兎ちゃんは頑張ってて偉いねーと、日ごろの行いを褒めてました」
「なんだそりゃ?」
「先生には分かりませんよ。結婚できてないんですから」
刹那、ポキポキポキっと骨の鳴る音が聞こえた。
見れば、沖先生がメラメラと炎を燃やしながら、にっこりとした笑みを張り付けて、こちらへ歩いてくる。
「覚悟は出来てるか?」
「ヒ、ヒィ!?」
「鉄拳制裁ジャァァァぁー!!!」
沖先生の琴線に触れてしまい、俺はこの後、滅茶苦茶ボコられた。
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