第41話 守りたい笑顔

 見事、正孝さんと英子さんの公認を貰った俺は、適当に世間話をして過ごして、無事にボロが出ることなく、ドキドキの自宅訪問を終えた。

 郁恵さんの実家を後にした途端、どっと疲れが押し寄せてくる。

 気をを張りすぎていたのだろう、疲れと共に安堵感が俺を包み込んでくれた。

 修羅場を乗り越えため息を吐いていると、申し訳なさそうに郁恵さんが声を掛けてくる。


「ごめんなさいね恭吾君。色々と面倒ごとに巻き込んでしまって」

「いえいえ、このぐらい平気ですよ」

「でも、随分疲れているみたいだし」

「そうですね。ちょっと慣れてない環境だったので。疲れはしましたけど、郁恵さんのお役に立てたなら良かったです」

「もう、恭吾君は本当に優しいんだから……。ありがとう」

「いえいえ。恵兎ちゃんもありがとね、上手くサポートしてくれて」


 俺が恵兎ちゃんに感謝の言葉を述べると、彼女は何やら考え事をしている様子でボケーっとしていた。


「恵兎ちゃん?」

「へっ⁉」


 再び声を掛けれると、恵兎ちゃんはきょとんと首を傾げてくる。


「大丈夫? 何か悩み事?」

「いえ! 何でもないです。ちょっと私も疲れちゃったので、ボーっとしちゃってて……」

「そかそか。恵兎ちゃんにも気を遣わせちゃったよね。色々と手伝ってくれてありがとう」

「いえっ、私がサポートするのは、家族として当然のことですから」


 そう言って、敬礼ポーズをしてみせる恵兎ちゃん。


「ごめんなさいね恵兎。こんな面倒ごとに巻き込んでしまって」

「平気だって。それより、これからどうするの? これですぐに別れても、先輩の印象悪くなっちゃうだろうし」

「そこはまあ、私の方で何とかうまくやりくりするから安心して頂戴」

「本当に大丈夫? お母さん、肝心な時にてんぱっちゃうから、ボロが出ないか心配だよ」

「恵兎にだけは言われたくないわよ!」

「私は確かに、家事全般は苦手だけど、こういう人の扱いだったりとかは、お母さんより手馴れてる自信あるもん」

「な、なんですってぇー!」


 娘の煽りに対して、頬を膨らませて憤慨した様子を見せる郁恵さん。


「やーい、ポンコツお母さーん」

「言ったわねぇ……! そんなこと言う子には、今晩のおかず、一品減らしちゃうんだから!」

「いいもんねー! 自分でから揚げ作るもん!」

「お願いだから、揚げ物だけはまだやらないでぇぇぇ!!!」


 自信を覗かせる恵兎ちゃんに対して、悲痛な叫び声を上げて止めにかかる郁恵さん。

 敢えて苦手としている家事デッキを人質に取ることで、恵兎ちゃんは一気に形勢を逆転してみせた。


 恐るべし会話術。

 そんな、二人の仲睦まじい様子を眺めていたら、俺は自然と笑顔がこぼれていた。


「先輩、どうしてニヤニヤしてるんですか?」

「恭吾君、どうかしたの?」


 二人がほぼ同時に俺の様子に気づき、キョトンと首を傾げて尋ねてくる。

 実の親子ではないものの、やはり顔立ちや仕草はそっくりで、改めて母子であることを認識させられる。


「いや、何でもないですよ。ただ、二人が仲睦まじくてちょっと羨ましく思っちゃっただけです」


 俺がそう言うと、二人は目を見合わせて、ふっと微笑を浮かべたかと思うと、こちらへ歩み寄ってきて、それぞれが左右の手を握り締めてきた。


「そんな水臭いこと言わないでください先輩」

「そうよ。恭吾君も、私たちにとってはもう一人の家族みたいなものよ。だから、遠慮なんていらないわ」


 そう言ってくれる二人に、俺は自然と笑みがこぼしてしまう。


「やっぱ、二人ともそっくりですね」


 いつまでも、この二人が幸せでいれるよう、俺も出来るだけ近くで、彼女たちのサポートをして、いつまでも見守っていたいと思うのであった。

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