第二章

第34話 朝のモーニングで動き出す日常

 土日を挟んで、迎えた月曜日。

 俺はいつものルーティンである早朝のランニングを終えて、母屋へと戻る。

 シャワーを浴びて、制服に着替えてから、リビングへと向かう。

 リビングに入ると、キッチンではよしヱばあちゃんが朝食の準備に取り掛かっていた。


「おはようばあちゃん」

「おはよう恭吾」


 ばあちゃんと朝の挨拶を交わして、俺はキッチンへと向かう。


「何か手伝うことある?」

「なら、トースターで食パンを焼いてくれるかい」

「分かった」


 ばあちゃんに指示された通り、俺は六枚切りの食パンを二枚取り出して、トースターへと入れてタイマーをセットする。


「そう言えば恭吾」


 パンの焼き具合を眺めていると、ばあちゃんが思い出した様子で話しかけてきた。


「昨日アンタ宛に留守電が入ってたよ」

「えっ、誰から?」

「なんか、どこかの高校の監督さんとか言ってたなぁ。確か……陸奥川田むつかわだ高校とか言ってたっけな?」

「あぁ……なるほどね」

「何か心当たりがあるのかい?」

「まあね……」


 なんとなくの予想はつくので、俺は適当に笑みを浮かべて誤魔化しておく。


 チーン。

 とそこで、タイミングよくトースターの音が鳴り響いた。


「おっ、パンがいい感じに焼けたよばあちゃん!」

「なら、お皿にそれぞれ乗っけてこっちに持ってきておくれ」

「はいよ」


 食器棚から平皿を取り出し、こんがりときつけ色に焼けたトーストを乗せて、ばあちゃんの所へと運んでいく。

 ばあちゃんは、下のパンに、スライスチーズとシャキシャキのレタス、さらはベーコン挟んでいく。

 そして、上のトーストを重ね合わせると、トーストを包丁で斜めに切った。

 三角形の形をした、即席サンドウィッチの完成である。


 俺とばあちゃんは席へと着き、それぞれいただきますの挨拶をしてから朝食にありつく。


「そう言えば昨日、郁恵さんから連絡があって、今日はバイトに来れないんだとさ」

「えっ、そうなの? じゃあ掃除とかどうするわけ?」

「私が一人でやるさ」

「いやいや、ばあちゃん一人はまずいって!」


 郁恵さんをアルバイトとして雇っているのも、ばあちゃんが足を滑らせて腰を痛めてしまって、機敏な動きが出来なくなってしまったからである。

 それに、万が一ばあちゃんに何かあったとき、すぐに対応できる見守り係という立場でもあるのだ。

 ばあちゃんを一人で開店準備をさせるわけにはいかないのである。


「今日は臨時休業にしたら?」

「いや、毎日銭湯を楽しみにしてくれてる人がいるんだ。体調不良でもないのに、休むわけにはいかないさ」

「ばあちゃんの気持ちもわかるけどさ……」


 困ったなぁ……。

 どうやってばあちゃんを説得しよう。

 俺が思考を巡らせていると、ばあちゃんがため息を吐いた。


「それで、恭吾に迷惑をかけることになるんだが、今日は放課後の部活を休んでくれるかい? 帰ってきてから、掃除をお願いしたいんだ」


 予想外にも、折衷案を提案してきたのはばあちゃんだった。


「それはもちろん! ただ、ちょっと開店時間遅れちゃうかもしれないけど平気?」

「あぁ、営業出来れば私はそれで満足さ」

「分かった」


 良かった、ばあちゃんが一人でやるとか意固地にならなくて。

 ばあちゃんも、自分の現状を理解してくれているみたいでよかった。

 恵兎ちゃんには申し訳ないけど、放課後の活動は休みだと連絡しておこう。


 そう言えば先日、郁恵さんが見知らぬ男の人と一緒にいたって、友香が聞いた覚えがある。

 その件と今日の休みは、何か関係しているのだろうか?


「ほら、早く食べないと遅刻するよ」


 ばあちゃんに言われて時計を見れば、いつも登校する時間が迫っていた。

 俺は急いでトーストに齧り付き、朝食を平らげる。


「ご馳走様でした!」


 食器をシンクに片して、一旦部屋に戻り、学校へ向かう支度を整える。

 スクールバッグを背負い、部屋を出て階段を降りていく。

 玄関へ向かう途中で、リビングで洗い物をしているばあちゃんに一声かける。


「それじゃ、行ってきますばあちゃん」

「はいよ。行ってらっしゃい」


 行ってきますの挨拶を交わしてから、俺は玄関でローファーを履いて、扉を開け放つ。

 今までのような肌寒さはなく、心地よい空気が俺を包み込む。

 俺はその足で家を出て、足早に学校へと向かって行くのであった。

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