第27話 劣等感と痛み
私、
そして、すぐさまシャワーをセットして、お湯を出す。
「きゃっ……冷たい!?」
出した途端、突き刺さるような冷水が出てきて、私は思わず飛び上がってしまう。
一旦シャワーを身体から離して、手でお湯が出てくるのを確認する。
しばらくして、私が求めている温度のお湯が出てきた。
私はシャワーヘッドを頭の上へと持っていき、豪快に全身を温めていく。
冷えていた身体から、一気に血管が膨張して、血流が良くなっていくのを感じる。
「ふうっ……生き返る……」
ジャージの下に何も身につけていなかったので、
チャックは上までピシッと閉めていたので、先輩には下に何も履いていないのをバレずに済んだけど、震えている様子を見られている時、もしかして気づかれてるでは、内心ハラハラドキドキしていたのは、ここだけの秘密である。
ガラガラガラッ。
浴槽と脱衣所の間の扉が開かれ、お母さんと友香先輩がハンドタオルを前に垂らした状態で入ってくる。
「恵兎、寒気は取れたかしら?」
「うん! 温かくなってきたよ」
「もう……だからちゃんとインナ―でいいから履いていきなさいって言ったでしょ? ジャージだけ羽織って外出るんだから……」
「ごめんなさい」
本当にその通りだったので、素直に反省して頭を下げた。
「まあまあ、いいじゃないですか。私なんて、家にいる時、基本ブラ付けないですし」
「そりゃ、暖房が効いてる部屋だったらいいけど……」
そんなやり取りをお母さんと交わす友香先輩の身体は、見事に腰回りが引き締まっており、胸元はバイーンっと効果音が出そうなほどに成長していて、お尻はプリっと綺麗な曲線美を描いている。
お母さんも大きい方だけど、擬音にするならポヨンという感じだろうか?
しかし、お母さんもプロポーションだけで言えば、負けず劣らずで、魅力はかなりある方だと思う。
それに比べて……。
私は思わず、自身の身体へ視線を向けてしまう。
小柄で、絶望的ともいえる胸元に、ちっちゃいお尻に、細くて不健康そうな白い脚。
二人を前にしてしまうと、私の女性的色気は、皆無に等しい。
いやいや、幻滅するのはまだ早い!
私だって、まだ成長期が来てないだけど、まだまだ伸びしろはあるはずだもん!
でも、中学三年生から高校一年生にかけて、身長も体重もほとんど変化しなかったんだよな……。
あぁ……お母さんと友香先輩のDNAが欲しい!
無いものをねだってしまうのは、仕方のないこと。
それが女性的魅力であればなおさらである。
私が現実に打ちひしがれていると、その凶暴なまでの乳房をグワングワンと揺らして、友香先輩がこちらへ近づいてくる。
「えっと、恵兎ちゃんだよね? 私、鈴木友香です。いつも郁恵さんと恭吾がお世話になってます」
ペコリと律儀にお辞儀をしてくる友香先輩。
同時に、ぷるんと乳房が揺れる。
「こんばんは、三竿恵兎です……」
私は、視線を泳がせながら自己紹介をする。
「恵兎ちゃん可愛いー! お人形さんみたい!」
刹那、ガバっと私の身体を抱き締めてくる友香先輩。
抱き着かれた瞬間、友香先輩から土の匂いが漂ってきて、真面目に部活を頑張ってるんだなというのが伝わってくる。
常本先輩も、運動終わりだとこんな匂いがするのだろうか?
ついそんなことを考えてしまう。
「ねぇねぇ! 身体洗いっこしない?」
ハグを解いた友香先輩が、きらきら笑顔で言ってくる。
「えっ⁉」
突然の提案に、私は驚きの声を上げてしまう。
「だって、恵兎ちゃんの肌とか、絶対スベスベで気持ちよさそうなんだもん!」
「あの……えぇっと……」
「ねっ、いいよね⁉」
「は、はい……」
私は押し気味に迫られて、頷いてしまった。
「やったぁ! それじゃあハンドタオル貸して、私が隅から隅まで洗ってあげるから!」
私の手元からハンドタオルを奪い取り、友香先輩は自身のボディーソープを泡立てて行ってしまう。
「ほらほら、座って座って!」
私は、友香先輩に言われるがままに木椅子に座らされると、後ろに先輩が近づいてくる。
「それじゃ、まずは背中から洗っていくよー!」
ピトッ。
「きゃっ⁉」
「あっ、ごめんね? 冷たかった?」
「い、いえ……ちょっとびっくりしちゃっただけなので……」
「くすぐったかったりしたら言ってね」
そう言って、友香先輩は私の身体をゴシゴシと洗浄していく。
背中周りから、肩から首回りを終えると、今度は私の左側へとやってきて、腰回りから足へと移って行く。
「うわぁ……恵兎ちゃんの肌ツルツル! 羨ましい……!」
「そ、そんなことないですよ」
というか、友香先輩の方が絶対に触り心地いいじゃないですって。
何処とは言いませんけど。
「それじゃ、次は私が身体を洗ってもらう番だね」
友香先輩はそう言うと、自身のハンドタオルを手渡してくる。
私はそれを受け取って、ボディーソープを泡立てていく。
「そ、それじゃあ行きますね」
「うん! どんとこい!」
友香先輩の背中は、私よりも一回り大きくて、後姿が様になっている。
私は、そっと友香先輩の背中に泡立てたハンドタオルを押し当てた。
刹那、タオル越しでも分かる、友香先輩のきめ細やかさと女性的柔らかさが伝わってくる。
「うわっ……凄い……」
「ちょっと恵兎ちゃん⁉ いきなり大胆なんだね♪」
気づけば、私は無意識のうちに、友香先輩の胸部へとタオルを回していた。
「ご、ごめんなさい! 羨ましくてつい……」
って、私なんてこと口走っちゃってるの⁉
自身の言動にあたふたしていると、友香先輩が首をぐるぐると回した。
「胸なんておっきくても全然いいことないよ。肩は凝るし、男子からの視線はエロイし、ろくなことないって」
「そ、そういうもんなんですか?」
私からすれば、異性の男子から、胸元へ熱い視線を送られてみたいと思ってしまうのだが、大きい人からすれば、あまりいい視線ではないのだろうか?
「分かるわ。私も良く学生の頃は、胸に視線を感じて、嫌な思いをしたものよ」
「お母さんもそうなの?」
「えぇ、ほんと男の子って、欲に忠実な生き物なのよ」
「ですよねー! 分かります」
お母さんと友香先輩が巨乳談義で分かり合っている。
なんだか少し阻害されている気がして、悲しい気持ちになってしまった。
「まあでも……恭吾君からの視線はちょっと違うんじゃないの?」
「そうですね。なんというか、恭吾からの視線は、多少の下心は含まれてますけど、それ以上踏み込んでこないと言いますか、むしろ注意してくる感じなんですよね」
「それはそうよ。だって恭吾君にとって、友香ちゃんは大切な人だもの」
お母さんが友香先輩へそう言葉を投げかけた途端、私の胸が何故かチクリと痛むのを感じた。
「えぇ、そんなことないですよ。私のこといつもぞんざいに扱ってるだけですってー!」
友香先輩は否定するものの、心なしか口調はどこか嬉しさを含んでいるような気がする。
ズキズキ……。
小さい針のようなチクリとした痛みが、二つ、三つと、私の胸へと突き刺さっていく。
何だろう……。
この虚無感や劣等感にも似た感情は……。
常本先輩の話題になる都度、私の胸をチクリと刺してくる謎の感覚。
それが何なのか分からなくて、私はその答えを、ずっと頭の中で考えさせられてしまうのであった。
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