第21話 二人の容姿
上田さんが銭湯に通い始めて、一週間ほどが経過しようとしていた。
友香の尽力もあって、上田さんもすっかり銭湯の常連客として、この空間に馴染んでいる。
今は、番台前にあるコニュニティースペースのソファに座りながら、友香と一緒にキャッキャウフフと女子トークに華を咲かせていた。
「彩瀬ってどうしてそんなに腕細いの? 羨ましすぎる」
「そんなこと言ったら、友香だって凄い脚綺麗じゃん。やっぱり普段から運動してるからでしょ?」
「うわぁー! 彩瀬の腕、ぷにぷにで気持ちいいー!」
「ちょ、やめてよー! えいっ!」
「きゃっ⁉ もう、やったな彩瀬!」
とまあ、そんな感じでお互いの身体を触り合ってはワーキャーワーキャーはしゃいでいる。
あのぉ……。
一応ここに、健全な男子高校生がいること忘れてませんかー?
正直、二人が持ちつ持たれつ戯れ合っている光景は、目の保養……じゃなくて、目に毒だ。
そういうデリケートな話は、是非ともお風呂の中でして欲しいものである。
視線を窓の外に逸らすものの、二人の戯れた際に聞こえてくる甘い吐息や息遣いが、無意識に耳に届いてしまうので、よからぬ妄想が頭の中に思い浮かんできてしまう。
「友香……」
「彩瀬……」
ピンクの空間に、霧のような靄がかかる中、二人は生まれたままの姿で、お互いに手を取り合い、胸元をぶつけ合って、恍惚な表情を浮かべている。
そして、二人はどちらからとでもなく目を瞑り、顔を近づけていき――
「って、いかんいかん!」
百合百合しい妄想をしてしまい、我に返った俺は、必死に首を横に振って煩悩を振り払う。
「ねぇ、恭吾はどう思う? 彩瀬ちゃんのこと。可愛いと思うよね?」
とそこで、友香がとんでもない質問をぶっこんでくる。
「俺に話を振るな!」
ったく、いきなり異性に何を聞いてくるんだあの幼馴染は……。
俺が視線を逸らして頬杖をついていると、不意に談話室が静まり返る。
ちらりと友香たちの方へ顔を向けると、二人はジィっとこちらを羨望の眼差しで見つめてきていた。
「ちょ……何?」
「アーシも気になるな……どう思われてんのか」
上田さんが頬を軽く染め、髪の毛を指でくるくる巻きながら、上目遣いに尋ねてくる。
「うっ……そ、それは……」
俺は脳をフル回転させて、必死に返答を考える。
そして、一つ咳払いしてから、邪な感じが出ないように努めた。
「まあ……パッと見は可愛いと思うぞ」
「そ、そうなんだ……」
俺の答えに、上田さんはさらに頬を真っ赤に染めた。
だから、そういう反応されると困るんですけど……。
「まあ、男としては外面的な女性的魅力もそそられる部分だけど、結局大切なのは内面の部分だろ」
気まずくなって、俺は減らず口を叩いてしまう。
「ふぅーん……じゃあ恭吾は、これでもそそられないって事?」
唇を尖らせた友香が、身につけていたキャミソールの胸元をぺろりと下げて、たわわに実った胸元の谷間が露わになる。
俺の視線は当然、友香の谷間に釘付けになってしまう。
そして、俺はとあることに気づいてしまった。
「なっ、おまっ……なんでブラ付けてないんだよ⁉」
そのぷるぷるの生々しい果実のような身に覆われているものがないのだ。
「だってこれ、ブラ付きインナーだもん」
そう言って、友香はインナーの裏っ側を見せつけるようにして、さらにぺろりと捲り上げた。
そのせいで、おっぱいが半分以上見えてしまい、ピンク色の突起の部分が――
俺は、咄嗟に視線を逸らす。
しかし、逸らした先にいた上田さんが、ジトーっと細い目を向けてきている。
「常本……」
「ヒィ!?」
ドスの利いた声を上田さんが上げてきて、俺は思わず身体を震わせて後ずさってしまう。
その反応を見た上田さんは、呆れたようにため息を吐いてから、友香の暴挙を止めに入ってくれる。
「ほら友香。男の前でそんな簡単に肌を晒しちゃダメ」
「えっ? でも恭吾なら、別にみられても平気だよ?」
「友香はもう少し、恥じらいというのを持ちなさい」
俺が言いたかったことを上田さんが代弁してくれる。
それも束の間、上田さんは再び俺の方を睨みつけてくると、深いため息を吐いた。
「ほらやっぱり……おっぱいがおっきくてムチっとしてる方がいいんじゃない」
独り言のようにボソッと言い放つ上田さんは、自身の控え目な胸元へ視線を向けて、悲しい表情を浮かべた。
俺は上田さんの身体全体を見渡して、慌ててフォローする。
「そ、そんなことないぞ。上田さんのフォルムだって、俺は好きだ!」
俺の言葉を聞いて、上田さんが一気に顔を真っ赤にさせると、バっと自身の胸元を腕で抱いて隠してしまう。
「み、見るな変態!」
どうやら、俺の助言は逆効果だったらしい。
「そういう所だよ恭吾。アンタがモテないのは」
「なっ……俺がモテないのは今のと関係ないだろ!」
呆れた様子で肩を竦める友香に対して反論すると、友香と上田さんが顔を見合わせた。
「ねぇ?」
「えぇ、そうね」
そして、お互い頷き合って同意する。
どうやら二人にとって、俺がモテないという事実だけは確定事項らしい。
もう少し、これからは女の子のセンシティブな部分への視線や感想コメントには、細心の注意を払おうと心に誓った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。