第17話 放課後のご指名

「先輩! こんな感じでいいですかね?」

「あぁ、いいと思うぞ」

「分かりました! ていっ!」


 放課後の家庭科室にて、俺は恵兎ちゃんに調理の指示を出しながら、考え事をしていた。

 昼休みの駐輪場で、友香が男子生徒に告白を受けていたのを目撃してしまった際、上田さんには呆れられ、友香には不貞腐れてしまった。


「一体、何が悪かったんだろうか?


 告白現場を偶然目撃してしまったのは、悪かったとは思っている。

 上田さんに関してはどうして怒られたのか分からない。

 友香に気になっている男子がいることに驚いただけで、どうしてあんなに白い目で見られなきゃならないのだろうか?

 そんなことを悩んでいると、室内に焦げ臭いにおいが充満してくる。


「せ、先輩! どどどどどどうしましょう!?」


 見れば、恵兎ちゃんが大慌てしていた。

 炒めていたはずの野菜が真っ黒焦げになっていて、炭と化していしまっていた。


「恵兎ちゃん火、火をすぐに止めて!」

「は、はいぃぃぃー!」


 俺の指示通り、恵兎ちゃんがコンロの火をすぐさま止める。

 フライパンには、見るも無残な焦げた野菜達がジュワジュワと音を立てていた。


「また失敗しちゃいました」


 恵兎ちゃんは、がっくしと肩を落として落胆してしまう。


「火加減が強すぎたみたいだね」

「やっぱり、料理って難しいです」


 落ち込んでいる恵兎ちゃんを慰めるように、俺は優しく彼女の頭に手を乗せる。


「練習あるのみだよ。今回は失敗しちゃったけど、次こそ上手くできるように頑張ろう」

「先輩……はい、私、頑張ります!」


 恵兎ちゃんはすぐに元気を取り戻して、両手で握り拳を作っている。

 まあ今回に関しては、俺がボーっとしてて不注意だった部分もあるからね。


「邪魔するぞ」


 すると、家庭科準備室の扉が開き、スーツ姿の沖先生が現れる。


「うわっ、焦げ臭!?」


 先生は家庭科室に入るなり、室内に充満している焦げ臭さに鼻を摘まんだ。


「うぅ……」


 先生のリアクションを見て、元気を取り戻した恵兎ちゃんが再びどんよりとした雰囲気を纏ってしまう。


「先生、もう少し空気を読んでください」

「えぇい、仕方ないだろ! まさかこんなことになってると思ってなかったんだから。ほら、窓開けろ、喚起するぞ!」


 先生は腕で鼻を抑えながら、家庭科室の窓を全開にする。

 俺と恵兎ちゃんも、先生に倣って近くの窓を開けて放つ。

 加えて、家庭科室の各机の上にある換気扇のスイッチをオンにして、一気に部屋に充満しているという匂いを取り除いていく。


「常本、すまないが、今日の実習はここで終わりにして、ちょっと付いてきてくれるか?」

「えっ、どこにですか?」

「とある方からのご指名でな。ぜひ常本を連れてきてくれと言われてるんだ」

「ご指名?」


 俺が首を傾げていると、恵兎ちゃんが心配した様子で覗き込んでくる。


「先輩、何やっちゃったんですか?」

「いや、特に悪行を働いた覚えはないけど……」


 そもそも、教室では目立たないようにひっそりとしているので、教師に目を付けられるような行動はしてないと思う。


「すまないな三竿、悪いが家庭科室の片づけを任せてもいいか?」

「はい。分かりました……」


 先生に言われて、恵兎ちゃんは戸惑いつつも返事を返す。


「ごめんね恵兎ちゃん」

「いえ、先生からのお呼ばれなら仕方がないですよ。しっかりと責務を果たしてきてください」

「アハハ……大したことではないと思うんだけどね。片付け終わったら、今日は先に帰ってていいから」

「分かりました。そうさせてもらいますね」


 恵兎ちゃんに後片付けを任せて、俺はエプロンを外してカバンにしまい込み、そのまま家庭科室を後にする。

 廊下では、沖先生が俺を待っていた。


「俺、何かやらかしました?」


 恐る恐る尋ねると、沖先生はスっと髪を払った。


「いや、君は何もしてないよ。ただ、どうしても君がいないとボイコットを起こすと言われてしまってな」

「ボイコット?」


 状況が読み込めず、俺は思わず頓狂な声を上げてしまう。

 というかボイコットって何?

 そんな治安悪かったっけうちの学校。 

 てか俺って、ボイコットを収めるような重要な役割果たしてたっけ?


「まあ付いてきてくれたら分かるさ」


 沖先生はそう言って、教室棟の方へと歩き出してしまう。

 俺は従うままに、沖先生の後を付いていくことしか出来なかった。

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