第13話 補講授業
俺はとある理由で、補講授業を受ける予定になっていた。
「はぁ……どうして放課後に補講なんて受けなきゃならないんだろう」
学校の方針に対する愚痴をぶつくさと言いながら、特別教室の扉を開く。
すると、そこには先客が座っていた。
教室にいたのは、艶やかな黒髪を靡かせた美少女。
ネクタイの色から見るに、一つ上の上級生だと分かる。
俺はその先輩と目が合った途端、キュっと胸を締め付けられた。
整った顔立ち、ぱっちりとした目、そして何より、制服越しからでも分かる、豊満な胸元。
こんなに容姿が整った人を、生まれて初めて見たかもしれないという感動に包まれていた。
「えっと……ここ、公休で単位が足りない人の補講場所なんだけど、もしかして君も?」
美しい先輩が、俺に向かって恐る恐る尋ねてきてくれる。
「はい……そうですけど」
俺が答えると、先輩は顎に手を当てて、ジロジロと俺を舐めまわすように見つめてくる。
正直、ちょっと視線がくすぐったい。
「ネクタイの色が緑色って事は、君もしかして一年生?」
「えぇ、そうですけど」
「そっか、そっか! 一年生で公休なんて使うってことは、君ももしかして、芸能関係のお仕事してるの?」
君もと尋ねてきたことから、先輩はそっち系のお仕事をしているのだろう。
「違います。自分は部活動の関係です」
「えっ、部活動!? うちの学校って、そんなに全国レベルの部活あったっけ?」
先輩は首を傾げながら、捻りだそうと必死だ。
「あっ、ごめんね、考えこんじゃって! 私は二年の
君の名前は?」
「……
「常本君ね! おけおけ! よしっ、それじゃあ君のことは恭吾って呼ぶから」
出会ってから五分も経ってないにも関わらず、いきなり下の名前で呼んでくる辺り、陽キャオーラを全面に感じる。
きっと、こういう初対面の人に会う機会が多くて場慣れしているのだろう。
「じゃあ自分は小海先輩って呼ばせてもらいます」
「うん、そうしちゃって! あっ、隣座って座って! どうせ私たち二人だけだろうから」
小海先輩が手招きしてきたので、俺は先輩の隣の席へと腰掛けた。
相変わらず小海先輩は、興味津々といった様子で俺のことをじろじろと観察してくる。
「あの……」
「ん、どうしたの?」
「小海先輩はその……ここにいるってことは、芸能関係の仕事をしてるんですか?」
「そうだよー! って、私結構校内では有名な方だと思ってたんだけどなぁー」
「すいません、自分がそういうのに疎くて」
「平気、平気! 気にしてないから! 私はグラビアアイドルやってるの!」
「グ、グラビアアイドルですか……」
小海先輩の職業を聞いた途端、俺の視線は自然と彼女の胸元へと向いてしまう。
うん、確かに大きいな。
「もう……見ないでよエッチ」
先輩が頬を軽く染めて、身を捩る。
「ご、ごめんなさい!」
「あははっ、冗談だよ。グラビアアイドルなんて言ったら、気になるのは当然だもん。むしろ、それで視線感じなかったら、ちょっと自信無くしちゃうとこだったかも」
「なら、お言葉に甘えてじっくり拝見させてもらいます!」
「こらこら! 見ていいとは言ってないぞ! 全くもう」
そんな冗談を言い合えるぐらいには打ち解けてきたところで、教室の前方から補講の教師が入ってくる。
「……なんだ、今日は安西の他にもいたのか」
入ってきたのは、ニットのセーターに身を包み、長い黒髪を靡かせるスレンダーな女教師。
俺は立ち上がって、その教員に向かってお辞儀をする。
「初めまして、一年の常本恭吾です。今日はよろしくお願い――」
「そんな堅苦しい自己紹介はしなくていい。もちろん君のことは知ってるさ。サッカー部期待のスーパールーキー君」
どうやら、俺のことは教員の間でも話題に上がっているらしい。
ちょっぴり恥ずかしい。
「へぇー……君ってそんなに凄い選手なんだ?」
「そんなことないですよ。ただちょっと他の人よりうまいだけです」
「うわぁ……ここにきて一番の皮肉の聞いた自慢」
小梅先輩が若干引いた視線を向けてくるも気にしない。
だって実際、部内でも一番実力はあるという自負があるのだから。
「まあいい、常本は席に座りたまえ」
先生に促されて席に着くと、教壇前にやってきた先生がふぅっと息を付きながら、のんびりした口調で話し出す。
「君たちの補講を担当する
「わ、分かりました」
まあ、学校もやらなければいけないから、形式上という形だけなのだろう。
がっつりした授業形式じゃなくてよかった。
「先生―! 聞いてくださいよ! 昨日まで沖縄で撮影だったんですけど、スタッフの人が衣装を宿に忘れてきて――」
そこから、小梅先輩は、沖先生に仕事で起こった出来事を楽しそうに話し始めてしまう。
沖先生も、小梅先輩の話に相槌を打ちながら、何やら作業を進めている。
俺は一人、借りてきた猫のように身体を丸めて二人の様子を眺めていた。
なんというか、女子トークの話題に紛れ込んだみたいになってるなこれ。
「あっ! そう言えば私、最近この近場でサウナあるところ探してるんですよね。先生どこか知りません?」
「私はこの辺に住んでるわけじゃないからな。近くのスーパー銭湯でも調べてみるか?」
とそこで、話題はサウナの話へ。
小海先輩は、近所でサウナのある施設を探しているとのこと。
であれば、絶好の場所があるじゃないか。
「あの小海先輩、俺知ってますよ。サウナがある場所」
「ほんとに? どこどこ!?」
目をキラキラと輝かせながら尋ねてくる小海先輩。
俺は少々詰まりながらも言葉を紡ぐ。
「松乃湯っていう銭湯があるんです。そこに女子風呂だけ、サウナが完備されてるんですよ」
「えっ、ほんとに⁉ しかも銭湯とか、最高じゃん!」
今にも飛び跳ねそうなほど嬉しそうな表情を浮かべる小海先輩。
そこまで喜んでもらえると、教えたこっちまで嬉しくなってきてしまう。
「教えてくれてありがとう恭吾! 今度行ってみるね!」
「はい、是非行ってみてください」
ばあちゃんに話をつけておけば、快く解放してくれるだろう。
これが、俺と小海先輩の初対面である。
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