新生活
それぞれの道
4月になり、白翔は正式に編集社で働くことが決まって月刊に配属になり、複数のマンガ家さんの担当を務めることになった。
碧波としては週刊として白翔と河島さん2人に作品を見てもらいたいという思いはあったがこればかりは自分でどうにか出来る問題ではない。
1人になり、マンガを描いていて始めて期間に間に合わず河島さんに迷惑をかけてしまう。求められているものは誰もが手に取って読みたくなるようなマンガ。
クオリティーに拘るがあまり期限をずらしてもらう。これまでなら白翔にお願い出来たが働き出してからはそうはいかない。どうするか頭を抱えていた。
次の打ち合わせの時、河島さんに相談をするとアシスタントにお願いしてみた方がいいかも。
そうすれば全て自分でやらなくていいし時間のゆとりが出来るよ。探すならこっちで募集かけておくよ。
申し訳ないと頭を下げてアシスタントを依頼する。
見つかったら連絡して家に伺うねと帰っていく。
理想はペン入れ、ベタ塗り、ホワイト、トーン貼り、消しゴムかけ、効果線と全て出来る人が来てくれるに越したことはない。だがそれで雑になってしまっては作品の質が落ちてしまう。
そうなるくらいなら絵を描くことが好きで何もやった事のない人に来てもらって1つのことを完璧にやってもらう方が余程ありがたいと考えていた。
いるのが当たり前だと思っていた白翔。何も言わず、見返りを求めずに率先して碧波が困っているからと手を差し伸べてくれた白翔。
知らない間に甘えていたのかな、もしかしてマンガ家赤松碧波がいるのも白翔のおかげなのかも。そう考えると涙が溢れてくる。
後日、河島さんから連絡がありアシスタントさんを男女合わせて6人を連れて家にやって来た。
それぞれ過去にマンガ家さんのアシスタントをするのが始めてで碧波のファンでぜひやりたいと手を上げてくれた。
まずは自己紹介をしてもらう。
みんなの力量が分からないこともあり、 アシスタントの仕事を説明した上で力量を見るために1つずつ適性を確認していった。
鈴木さんにはホワイト、森さんには効果線、小島さんには消しゴムかけ、佐藤さんにはペン入れ、河合さんにはベタ塗り、高橋さんにはトーン貼りとそれぞれに役割分担をして新体制で始める。
初心者ばかりで出来るか心配をしていたがみんな丁寧にやってくれていた。最初は中々出来ずに手こずっていたがやっていくうちにどんどん上手くなっている。
出来るからといって何でも任せるのではなく、1つのことを極めてもらおうと考えていた。
問題点
アシスタントさんとともにマンガを描いていて思うことがある。速報、発売号ともに1位を走り続けている。
だがずっと上に居続けることはありがたいがもっとよくしたい、どうすれば作品のクオリティーを上げられるのかを考えていた。
ある日、碧波は始業の挨拶をして意見を募る。
「石岡杏子と子グマのリナちゃん物語」
この作品をよくするにはどうしたらいいか、改善点やこうした方がいいというものがあれば何でも意見を出て欲しい。
6人は自分ごとのように作品のことを考えている。
河合さんが手を挙げる。
マンガでも現実世界でも犬や猫用の衣装を着て散歩をさせたりしているから子グマのリナちゃんも何か衣装を着させてみてはどうか。
次に佐藤さんから似合うか分からないけど子グマのリナちゃんにカチューシャやヘアバンドを付けてみたらかわいいと思う。
自分では気が付かなかった意見が挙がってとても参考になったが1つ問題点があった。
それは衣装を着させるにしてもカチューシャやヘアバンドを付けるにしてもモノクロで描くことがメインのマンガにおいて毎回出来る手法ではない。
ひとまずカチューシャのイメージ図を6人に描いてみせてもらうことにする。
別のことをやってもらう間、碧波はアシスタントさんの仕事も全て行う。
自分だけで回らないから手伝ってもらっているがアシスタントさんに来てもらっているならそれぞれの感性を聞いて取り入れてみよう。そう考えていた。
描いてもらったのを見ると子グマのリナちゃんのかわいさが増している。次に衣装を着せてヘアバンドとリボンバージョンもお願いする。
その中で河合さんのミニワンピースを着てリボンを付けている姿を見て雑誌に載せるだけでなく、単行本やアニメそしてグッズ化したら映えると考えた。
試しに少し加えたパターンで描いて打ち合わせに臨むことにした。アシスタントさんが帰る時間、次の打ち合わせに参加して欲しい。交通費出すから来れる人は一緒に来てとお願いをする。
アシスタントさんを連れて打ち合わせに参加をするマンガ家は普通いない。異常だと思われても自分の作品をよくするためなら何と思われようと関係ない。
打ち合わせの日、河島さんは驚いた顔をしていたが碧波が連れて来た。
そしてネームを見せると新たな視点だね。そう言うとここにいるアシスタントさんの意見を取り入れてみたと理由を述べた。
そして発売号で巻頭カラーで参考にして取り入れたら1位を取るだけでなく、多くの手紙で子グマのリナちゃんがさらにかわいくなった。
何か物足りないと思っていたけどそれが解消されたと賞賛されていた。
マンガ家にとって読者を喜ばせるだけでなく、一緒に働いてくれるアシスタントさんにも喜んでもらえるようになりたいと強く感じていた。
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