他人事
不安と葛藤
思っていた以上の反響に白翔、河島さんそして作品を描いた碧波は驚きを隠せずにいた。しかし碧波の表情を見ると嬉しいと言うよりも何かに怯えているような様子だった。
河島さんからファンレターが毎月のように家に届くようになり、読んでみると少なからず誹謗中傷はあるものの大半は早く次のお話を読みたい。
今後の展開が気になると言った肯定的な意見が多く寄せられていた。涙を流す碧波を見て喜んでいるものだと思っていたら実はそうではなかったみたい。
白翔は碧波に声をかけると小声で何かを言っている。
「一体、何のためにマンガを描いているのか……」
普段なら弱音を吐かない碧波のその言葉に耳を疑った。ひとまず何があったのか聞いてみた。
マンガを描くことが好きで今までやって来たのに1位になって嬉しい。
前は順位はただの数字にしか過ぎないって思っていたのにいつの間にか上を目指すこと、1位になるために作品を描いているような気がする。
マンガ家赤松碧波としてはそうするべきなのに1人のマンガを描くことの好きな赤松碧波はいない気がする……。
その言葉を聞いてすぐ話を噛み砕けなかった。だが冷静に考えてみて碧波が考えていることはこうではないかと自分なりに検証してみた。
マンガ家として1位を取りたいと頑張るのはなんら不思議なことではないがそれは作品のためであって自分のためではない。
追うのも大変だがそれ以上に追われる立場になって純粋にマンガを描くことが大変なのかなと考える。1位を守る意地と1位であり続ける維持、この葛藤にいるんだと考えた。
涙を流さまいと必死に堪えながらマンガを描く姿を見ていて胸が苦しい気持ちでいた。だが週刊で原稿を落とさないように描き続けること、そして自分が苦しくても読者にマンガを届けるのがマンガ家の仕事。
複雑な気持ちに入り交じっていながらもしっかりと次を見据えて描き続ける姿に人として尊敬をしていた。
次号の速報、そして発売号にて1位を取って周りから当たり前のように取るようになってそろそろ単行本を発売するという話が挙がってきた。
河島さんからそう言われ、ありがたいことだがまだ単行本にするにはページ数が足りないと実感していてまずはそこを目指そうと碧波は考えていた。
描いている絵が変貌を遂げたと言うくらい変わった訳ではないがずっと作品を見てきた白翔からすると単行本、その先を見据えて描いているように見えていた。目標を掲げてやることは悪いことではないと感じていた。
発売決定
杏子と子グマのリナちゃん物語が連載が決まって半年、1つの目標を達成しようとしていた。
それは週刊雑誌に載っていたマンガがはれて単行本として書店やネットなどで売り出されることとなった。
河島さん、白翔そして碧波も喜びをかくせなかった。お祝いに食べ放題のお店でご馳走様してくれた。
碧波は突然涙を流し始める。
「河島さん、休載したいって言ったりワガママばかりで扱いにくいと思いつつもいつも支えてもらいありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
そう言うと河島さんをはこのような言葉を述べた。
「こちらこそ看板とも言える赤松碧波さんの作品に関われる機会を得たことは編集者としての誇りだよ」
涙が止まらないくらい泣いていて周りが心配するほどだった。とりあえずハンカチを差し出した。
前菜、惣菜、デザートとこんな華奢な身体に入る胃袋があるのかというくらい食べていた。
その量は白翔の倍をゆうに超えるくらいであった。食べ終わったお皿がどんどん積み上げられてき、あっという間に時間になってしまう。
待望の発売日、店頭ではどこに行ってもなくてネットでも注文をしてもいつ届くか分からない程で1週間も経たないうちに重版が決定をした。
スマホでここ最近の重版している作品を検索するとマンガ好きはもちろんのこと、マンガを知らない人でも耳にしたことのあるような作品ばかり並んでいた。その作品に肩を並べる日が来るとは思いもしなかった。
ずっと愛されるような作品、本棚に赤松碧波のマンガを置きたくなるような作品を描こうとモチベーションを上げて頑張っていた。速報発表ではないある日、碧波のスマホに河島さんから着信があった。
こんな嬉しい日が来るとは思いもしなかった、まるで夢のようだ。碧波ちゃんにはなんと感謝したらいいか分からないとスゴい熱量で話していた。
だが受け手側の碧波には何も情報が入ってきておらず、興奮しているということはよほど嬉しいことだということは伝わってきた。
内容を聞くと来春から「キョウコと子グマのリナちゃん物語」アニメ化決定。
それに当たって声優オーディションを行うことが決まったから碧波ちゃん、吐くと君にも会場に来て審査してほしい。会場の日時は決まり次第、連絡するね。そう言って電話が切れた。
小声でアニメ化か……。しばらく経ってアニメ化!?と大声で叫び近所中に聞こえるくらいの声量で話していた。電話を受けたその日、碧波も白翔も嬉しさのあまり朝までねられなかった。
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