結果

評価は数字

「杏子と子グマのリナちゃん物語」


タイトルが決まり、主人公とその家で飼う子グマのリナちゃんを飼う。そして北海道が小豆が有名とのことでどら焼きが好きという設定にした。


決まるまでは数週間経過をしていたが描くことを決まってからはペンの走りが驚くほど早い。


数日前まで頭を抱えて悩んでいた人とは思えないと白翔は客観的に感じていた。


提出する紙にそのまま描かずに文具屋で自由帳に絵を描いてそれに付随してストーリーを描いていた。


その表情はスゴく嬉しそうで時間を気にせず夢中になっている。ひとコマ描いては白翔、こんな感じはどうかな?


リナちゃんは女の子だから耳にリボンとか付けた方がいいかなと笑顔で聞いていた。


キャラクターやストーリーは碧波らしさを崩さず、どうしたらよりよくなるかを考えて手解きをしている。


締切まで残り10日を切っているが未だに自由帳でやっている。さすがにこのままではマズいよ。


「……。そうだね、完璧にしたいけど時間もないし取りかからないと評価してもらえないからね。よし、この作品の実力を見せつけないと」


そして用紙に描き出し、時間が足りなければ手伝おうとしていた白翔。だがそれは杞憂に終わる。


主人公杏子は誰からも愛されるような女の子でペットの子グマのリナちゃんは人懐っこくてご主人様のことが大好きでどこに行くにもついて行く。


キョウコが学校に行こうとしてお留守番しているようと寂しそうな顔をして見つめている。


リナちゃんは杏子の友達からも好かれていた。

誰にでも抱っこさせてくれて寂しがり屋で飲み物を取りに行っただけでも後ろを振り向くといる。


笑顔でみんなのアイドルとしていた。その上どれだけ食べても大きくならないのが最大の特徴であった。


白翔が想像していた以上にかわいい作品でこれを読み切りで出来るってすごい。連載になったらどうなるのかの話の続きが気になっていた。


読み切りを描き終えて期限ギリギリではなく、少し早めに提出しようと1週間前に編集社に送付した。


読み切りの結果が分かるまでしばらくゆっくりするかと思われていたが河島さんから送られてきたマンガを読み漁って何か参考になるものがないかと血眼になって読んでいる。


何か思いついては自由帳にメモをする。一般人の白翔とマンガ家の碧波では同じものを読んでも視点が違うのかなと感じていた。


読み切りの結果は河島さんから電話で聞くことになっていた。

碧波のもとに電話がかかってきた。


「杏子と子グマのリナちゃん物語だけど社内外でスゴい評判だよ。別の部門でもある月刊でゆっくり練って連載したいって声もあるし読者の声でマンガ化はいつなのかって多くの声が届いているよ」


自分が思っているよりも評価が高いことに喜びはあるが客観的に評価出来るのは順位という数字。碧波は河島さんに順位を尋ねた。


碧波ちゃんもやっと順位に貪欲になったね。それだけど選外だったよ。他の人たちと比べて飛び抜けていて特別賞という形になったよ。


とりあえず言えるのは今回の作品も面白いし読者も楽しみにしているってことだよ。編集社に来て欲しいからまた日時を伝えると電話が切れた。


一緒に

碧波が高校2年生、白翔が中学2年生になる年の8月某日の午前9時に編集社に来て欲しいと河島さんを通じて連絡が届く。


前日、函館空港から羽田空港に飛び立ち初めて東京に向かう。電車の乗り継ぎや人の数、街並みなど全てが函館と全然違っていた。


予約していたホテルに着いても高いところから眺める夜景に興奮して碧波、白翔ともに中々寝付けずにいた。同じ部屋で一緒に過ごすのは何年ぶりだろうか。


翌朝、ホテルで朝食を食べて編集社に向かう。

東京の電車の多さに驚く。在来線、私鉄、都営地下鉄、東京メトロ等と線路が張り巡らされている。


その上都営地下鉄に乗っていたと思いきや突然地上に出て私鉄と乗り入れる相互運転には頭がこんがらがっていた。


そんなこともあり、電車に乗ったはいいものの編集社の予定時間に迫っていた。


碧波は河島さんにラインを送ると今いる駅に迎えに行くから降りて近くにあるコンビニで待っていてと返事が届いた。


言われるがままコンビニに行って待機していると数分後に車で迎えに来てくれた。


車を走られること10分、編集社に着いて向かう。


初めて入る編集社に心を踊らさせていた碧波と白翔、編集長に呼ばれて別室で河島さんと4人になる。


「赤松碧波さん、読み切りのキョウコと子グマのリナちゃん物語面白かったよ。トロフィーと賞状を贈呈させてもらうよ」


碧波は改めてお礼を伝えてわざわざ呼んだのには理由があるのではと尋ねた。


さすがだね。月刊でゆっくり練って連載を目指すか、今まで通り週刊で連載を目指すかどっちがいいかね?


碧波は白翔の顔を見て様子を伺うが決めるのはマンガ家赤松碧波本人だよ。協力出来ることは何でもする。


それを聞いて今まで通り週刊でやって行くことを決めた。これで話が終わりだと思われていた。

後、白翔君にも話があってさ。


何も聞かされていない白翔は何を聞かされておらず背筋が伸びる思いだった。


「白翔君、少し早いけど中学を卒業したら編集社で正社員として働いてもらえないだろうか?君の眼力でマンガ家赤松碧波、そして他のマンガ家の担当として活躍して欲しい。今までは学歴重視だったがこれからは実力があれば学力は関係ないと思うから」


その話を聞いて碧波は珍しく怒った。

突然そのような話をするのは筋違いだと思います。白翔が高校を卒業するまで待って欲しい。


その時改めてオファーしてください。そうでないなら他の出版社で描きますと伝えた。


自分のこと以外で紛糾するのが珍しい。


だがこう言った言い方をすればその出版社から追放されて掲載することは難しいが編集長としては赤松碧波は看板マンガ家と認めているため、白翔が高校卒業してから再び編集社にスカウトすることを誓った。


マンガ家赤松碧波を失うことはどういうことなのか、傍からながらスゴイことだと白翔は実感していた。

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