第2章 マンガ家デビュー
逸材
碧波からいつものようにメールが届いた。お父さんの仕事で転勤によって転校することになった。場所は旭川から釧路と北海道内だが、やはり距離が遠い。
言葉で距離が遠いといっても全然検討がつかず、パソコンで調べてみる。自分の住む函館から釧路まで検索すると電車や車で7時間、途方もなく遠い。これまで以上に簡単には会えなくなると思うと寂しい。
毎日のようにメールをやり取りしていたがある日を境にぱったり来なくなる。忙しいのかな、それとも好きな人が出来たのかな。
碧波は中学生、好きな人がいてもなんら不思議ではない。だが、家に帰って碧波からメールが届いていないか確認をする白翔。いつもの日常だったメールが来ないことにもどかしさがあった。
白翔は5年生に進級したが昨年と同じクラス、同じ先生で特別何か変わったということはない。小さい学校ではこういうこともよくある。
誰も知らずにいちから関係を築くことを考えればこっちの方が楽でいいかなとすら考えていた。
本屋
梅雨の時期、外に遊びに行けずみんなもやもやしている時に何かの話題で男の子も女の子も盛り上がった。
みんな何に盛り上がっているの?教えてよ〜。
「白翔、赤松碧波っていう中学生マンガ家が人気でその話をしていてさ。連載してるってスゴいよ〜」
赤松碧波?何か聞いたことあるな……。俺の従姉妹も同姓同名だけどあの碧波?マンガ家やってるって初めて聞いて驚いた。それなら教えてくれてもいいのにとすら感じていた。
その少年誌の連載見てみたいなと口ずさむと今日が新刊出る日だから一緒に本屋に行こうと決まる。
碧波がどんなマンガを描いているのか気になって授業の内容が全く入ってこない。授業を終えて家にランドセルを置いて本屋に向かう。男の子2人、女の子3人がやって来た。
タイトルを見ると「従姉妹恋愛物語」
まさか旭川での出来事とか描写されてないよね……。そう思ってページをめくっていると予感は的中する。
一緒に旭川動物園に行ったこと、電車に乗って出かけたことが描かれていて何と言ったらいいのかという感情だった。
さすがに名前は変えてあるにしてもこの従姉妹のモデル、自分だよ。なんて決して言えない。
読み終わって女の子に渡す。目を輝かしてマンガを読んでいる姿は従姉妹を度外視して中学生マンガ家、赤松碧波っていう人はこんなにも多くの人を感動させるものを描いていることにスゴいと見ていた。
全員が読み終わって感想を言い合っていた。
男の子、
本屋で騒ぐのはよくないと思った白翔は公園に行こうと促す。ここにいる以上自分にも聞かれるだろう。逆に答えないと怪しまれると思いつつ聞かれたら何と答えようかずっと考えていた。
公園に着いて先ほどと同じ質問が聞かれた。
男の子拓人君と女の子晴香ちゃんだけど誰かモデルがいるのかな?それとも従姉妹の恋愛を空想で描いているのかな?
名前を変えているだけでホントに従姉妹同士が好きで描いているという意見もありつつ、従姉妹同士で恋愛ってないと思うからこそこれだけ細かく描けることが出来る。白翔は全てを知っている上で後者だと主張する。家に帰って家族に碧波がマンガ家だと伝える。
パソコンを付けて碧波にメールをする。
マンガ家デビューおめでとう。従姉妹恋愛物語を読ませてもらったよ。これって俺たちのことだよね?マンガ家になったこともそうだし今回こういった作品を描こうと思うってひと言くらい教えて欲しかったな。
数時間後、家に電話がかかってくる。相手は碧波。
メールじゃなくてちゃんと言葉で伝えたかったから今日は電話かけちゃった。
マンガ家になったこと、従姉妹恋愛物語でこういうの描きたいって予め伝えられなくてゴメンね。
連載になってもどこまで続くか分からない不安から言わなきゃと思いつつも言えなかった。白翔のいう通り何事も先に言うべきだったよね。
電話越しに聞こえる涙声を聞いて問い詰めちゃったかなと自責な思いがある。これで嫌われたワケではなくマンガを描くのに忙しくてメールに割く時間がなかったと分かっただけでもひと安心した。
白翔は何か言わなきゃとマンガ家赤松碧波、そして従姉妹恋愛物語を楽しみにしてるよ。ムリだけはしないように、そう言って電話を切った。
スマホがあればわざわざ家の電話にかける必要もないしメールも電話のやり取りも楽になるのにな。小学校5年生で周りを見渡しても携帯やスマホを持っている人など誰もいない。
次回の従姉妹恋愛物語がいつ掲載されるのかとワクワクと自分のことを描かれている恥ずかしさがあった。
マンガのことについて何も知らない白翔、本屋に行って従姉妹恋愛物語は1年以上続く作品となっていていつもなら白黒で描かれているのだが何回かは巻頭カラーやセンターカラーを務めるようになっていて名実ともに赤松碧波、従姉妹恋愛物語は注目されるようになっていた。
載っている時は毎回買って感想を報告する。それくらいしか出来ることがないと感じていた。
どのような作品の終わりになるのか1人の読者として楽しみにしていた。最終回は旭川から函館に帰る前日まで描写されていて忠実に再現されていてとても恥ずかしい。
最後にこのシーンで終わるってこの後どうなるのか、気になる。次に会った時、何をするのだろうか。
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