神の火

 炎は、内山家の裏手から上がっていた。男性が見つけた時は煙さえ見えなかったのに、今はひどく焦げくさい匂いとともに、大きな炎が上がっていた。

「まずい。見るものよ、中には人がいるのだろう?」

 町子は頷いた。

「うん。ひどく小さな気配だけど、幾つもの命。これは多分シリン」

 見るもの、と呼ばれた町子が言い終わらないうちに、内山家の一角が崩れてきた。激しい轟音とともに燃えている部分が崩れていく。そこにいた誰もが武器を手に取ったまま動かない。救急車や消防車を呼ぼうと言う者は誰一人いなかった。

「見るものよ、今なら助かるかもしれない。ここは私に任せて家の中へ急ぎなさい」

 崩れかけた家を見て、男性が言った。すると、町子は輝の手を強く握った。

「輝くん、君、サッカー部だよね。そのキック力で、ドアを蹴破ってくれないかな」

 そう言って、町子は輝を内山家の扉の前まで走って連れていった。輝は焦ってこう返した。

 森高の言っていることは無茶苦茶だ。そして、俺にはドアを蹴破るような怪力はない。

 輝は、扉を前にして、森高の言ったことを無視して行動を起こした。上半身で、強く何度もドアにぶつかっていったのだ。ドアが開くと、強い熱気が中から勢いよく出てきた。これに炎が被さればとんでもないことになっていたことだろう。二人はそれを想像しながら、急いで家の中に入った。

 一方、外では、家の中に入った二人を守るようにして、襲いかかってくる人間たちを移民の男性が止めていた。武器を持った人間たちは、一斉に男性に襲いかかっていった。松明も、バットも、包丁も、一気に男性の元に振り下ろされていった。

 しかし、そこで男性は両手を広げ、襲って来る人間のうち二人の腕を掴んだ。そして、なぜか身動きの取れなくなったその二人をそのままに、こう言った。

「人の子よ、主のもとに鎮まり、その身に我が名を刻め」

 すると、男性の体から強烈な光が放たれた。それは近所一帯を覆い尽くし、そこにいる人間のあらゆる力を奪い去った。武器を持っている者はそれを捨て、何かの役割でここにいたもの全てがその光に触れて次々に倒れていった。

 光が収まると、そこには、翼が生えて長い布を全身に巻きつけた格好の人間が立っていた。アフリカ系移民の男性のいたそこには、光り輝く天使の姿をした人間が立っていたのだ。

 天使のような姿をした、男性とも女性とも言えない、中性的な姿をしたそれは、右手を天に振り上げた後、その手を降ろして、倒れている人間の上に翳した。

「我が名はウリエル。大天使の一にして神の火なり。ここにいる全ての者たちに告ぐ。即座に自らの役割を思い出し、この一件を鎮めるがよい」

 その声に、そこにいたすべての人間が目を覚まし、目の前の惨状を見た。誰かが焦って消防車を呼び、救急車も手配された。その頃には、先ほどの天使の姿はなく、代わりにアフリカ系移民の男性の姿があった。

「見るもの、戻すものに、我が主とこの星の加護があらんことを」

 家の中に入っていった二人を見つめるかのように、男性はそう、つぶやいた。

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