炎の中の声
家の中に入って行った輝と町子は、町子が感じ取る命の気配を頼りに家の中を進んでいった。しばらくすると女の子のすすり泣く声が聞こえてきたので、そちらに向かった。すると、そこがこの家のかなり奥の方でごうごうと音を立てる炎の音にかき消されて聞こえづらくなっていることが分かった。炎に触れないように慎重に近づいていくと、突然、鳴き声が止んだ。
すると、町子が身震いをしてその場に座り込んだ。
どうしたのかと問うと、彼女は肩を震わせて、小さな声でこう言った。
「ここはもう安全じゃなくなるよ。急激に冷えてたくさんの水蒸気が上がるから、ここにいたら私も輝も火傷しちゃう。逃げよう」
「急激に、冷える?」
問いかけると、町子はそれ以上何も言わずに輝の手を引っ張った。今まで来た通路を辿って入り口に逃げ、壊されたドアを潜って外に出ると、後ろにある玄関が崩れてしまった。
「一体どういうことなんだ? 女の子を助けられなくなっちゃうじゃないか」
輝が振り返ると、家のそこらじゅうが崩れてきた。救急車や消防車のサイレンが遠くに聞こえる。目の前には森高と、例の男性、それに半纏を羽織って着物を着た小さな女の子がいる。
それを見て、輝はため息をついた。森高に妹はいただろうか。よく知らないが、あのおかしくなった街の人たちの中でまともだった少女がいたということなのだろう。
「君は?」
一応、少女の名前を聞いておこうと話しかけると、少女は町子にしがみついた。
「君が何を考えているのか分からないけど、この子はこの家の子。さっきまで炎の中で泣いていたのはこの子だったんだよ」
町子の言葉を聞いて、輝は大きな声を上げた。どうして今の今まで炎の中にいた女の子がこんな場所にいるのだろう。
輝が頭を抱えて混乱していると、移民の男性が輝の肩に手を置いた。
「地球のシリンが助けてくださったのだ。詳しいことは町子さんの家で話そう。ここに長居はよくないようだ」
地球のシリン。
聞かない言葉だ。町子が空を飛んだ件といい、何が何だかわからないことばかりだった。しかし、確かにこの場所に長居をするのはよくない。街の人たちに色々見られると良くない部分がたくさんあった。輝は混乱したまま、移民の男性とともに町子の家に向かった。
家の炎は、消防車が来る前に消え、水蒸気の煙があたりに漂っていた。
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