洗脳ラジオ

 輝は、森高のおばが自己紹介をして手を差し伸べてきたので、ガチガチに緊張しながらその手を取った。柔らかい手だ。温かく、柔らかい。

 こちらが、森高と血のつながりのある方なのだろうか? 森高と、森高のおばを見比べると、あまり似ていない気がした。しかも、この人は外国人だ。ハーフなんかではない、明らかな外国人だ。そういえば日本語の発音に少し訛りがある。

 輝が顔を赤面させてキョロキョロしていると、森高が咳払いをした。

「おばさんは、アメリカ出身なの。ドイツ系アメリカ人の三世。私の母の兄の奥さん。つまり、私と血の繋がりのあるのは伯父さんの方なの。分かったら伯母さんと私を見比べるのはやめてよね」

 森高がそう言って迫ってきたので、輝は彼女をなだめながらフォーラに挨拶をした。

「高橋輝です。よろしくお願いします」

 輝が挨拶を終えると、森高は不機嫌そうに輝を見た。輝は、フォーラがかなり気になっていた。タイトスカートの中から伸びるスラリとした白い脚、ふくよかな胸、そして、ハリウッド女優も顔負けの美女。学校のアイドルと呼ばれている森高が幼く見えてしまい、思わず輝は森高から目を逸らした。

 それが気に入らなかったのか、森高はもう一度咳払いをした。

「それで伯母さん、今回の件なんだけど」

 森高の一言で、フォーラの瞳の色が変わった。その美しい金色の瞳は曇り、緊張しているのが明らかに分かる。

「真夜中のラジオね」

 森高が、頷いた。

「真夜中のラジオ?」

 輝が聞き返すと、フォーラは頷いた。

「ここ最近の混乱の元凶が、どうやら深夜に放送されているラジオのせいらしいのよ。それも、公共の電波を使っているから、誰もが聞くチャンネルからの放送が原因みたいでね。町子ちゃんやそのお友達、それに私の夫の調査で、これだけは分かったの」

 そう言って、フォーラは森高に目配せをした。頷いて、森高は話し出した。

「時間帯で言うと、朝六時から夜九時までの時間帯にやっているテレビ番組や動画の電磁波に何らかの細工をして、深夜のラジオを聴くようにみんなを誘導している何かがあるみたいなの。そして、深夜に最も強くなる電波に乗せて、一種の洗脳プログラムが組まれた音波を出してみんなを操っている。その目的までは分からないし、犯人の特定もできていない。このことを警察に話しても、洗脳されているから取り合ってくれない。それで困っていたら、私や伯母以外に洗脳にかかっていない人間がいた。それが輝、あなただった。そこでお願いがあるの」

「お願い?」

 森高とフォーラは頷いて、二人同時にこう言った。

「実験に協力して欲しいの」

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