金の瞳の精神科医

 輝は、看護師に言われるまま、森高とともに病院の待合室で、すべての患者の診察が終わるのを待っていた。

 森高と話すことは特になかったので黙っていたのだが、先ほどの看護師と森高とのやりとりは気になっていた。そのせいか、二人の間には気まずい雰囲気が漂っていた。森高は床に目を落とし、何度もため息をついていた。

「高橋くん」

 気まずい雰囲気を破ったのは、森高の方だった。床に目を落としたままつぶやく。

「どうしてこんなことになっちゃったんだろう、私たち」

 輝は、森高を見た。少し弱々しく見える。

「いきなり訳も分からず、部活もバイトも休まされていきなりこんなところにまで来いって言われてさ。なんで俺がって思わない?」

 輝は、その森高の言葉にほっとした。今まで、彼女のことを何か特別な存在だと思っていた。もちろん、学園のアイドルという存在は特別ではあった。しかし、それとは違って、今回感じたのは、彼女が普通の人間だという安心感だった。

「そりゃあさ」

 俯いている森高の方は向かず、待合室にある、消えているテレビの方を見つめて、輝は返した。

「ここに来るまで、いや、今まではそう思っていた。でも、森高は俺と違ってちゃんとしているよ。みんなが、先生や親たちもおかしくなってさ。まともなのは自分だけで、不安なのは俺だって同じだよ。でも、それを何とかする方法を、あんたのおじさんやおばさんが知っているのなら、俺だってここに来た価値はある。森高には、ちゃんとそういうのが見えているんだからさ」

「ちゃんとしている?」

 不安げに聞いてきたので、頷いて返すと、森高は少しほっとしたように笑顔を見せた。

「ありがとう、少し、気が晴れた気がする。そうやって評価されることってあまりないでしょ。みんな私の見た目ばっかりで。だからもっとちゃんとしなきゃって、少し焦ってた」

 輝は、森高のそのセリフに肩を撫で下ろした。自分の言葉が少しでも役に立った。それが何だか嬉しかった。普段女子とはあまり関わらない分、こういった会話は新鮮だった。

 そうこうしているうちに、待合室にいた患者はどんどん帰っていき、とうとう輝と森高、二人だけになってしまった。程なくして、先程の相沢さんが来て、二人を診察室に案内してくれた。日は暮れ、すでに外は夜になっていた。

 診察室に入ると、相沢さんは待合室へ戻っていった。中には、ブロンドの髪の毛を背中まで伸ばした女性が椅子に座ってにっこりとしていた。白衣は着ていない。薄めの白いブラウスの上に緋色のベストを着ていた。同じ緋色のタイトスカートから見える脚はすらっとしていて、服の上から見えるふくよかなバストと相まって、かなりスタイルの良い女性だった。相当な美人で、瞳は珍しい金の色をしていた。こんな人が精神科医なら、この病院は相当繁盛しているのではないか。輝はそう思って唾を飲み込んだ。

「高橋輝くん」

 金色の瞳を、その精神科医は緊張させた。輝を見る目が厳しい。少し怯んで、ハイ、と答えると、今度はその緊張した目を緩めて、森高のおばは優しく微笑んだ。

「私が、町子ちゃんの伯母で、フォーラ・フェマルコートと言います。よろしくね」

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