第43話 情報回収
『タイプ:オリンポス起動。敵対ナノマシンを回収します』
俺たちを取り囲むようにナノマシンの渦が立ち上った。
無数に泳ぎ回っているナノマシンを一つ一つ『オーバーホール』で分解している暇はない。逆に考えると、ナノマシンは全て液体、水に包まれていることだということ。
つまり電流が通るわけで。
「『電磁弾』! 『電磁弾』!! キリないなコレ!!」
四方八方に『電磁弾』を乱射しても一瞬、渦に空白が生まれるだけで際限なく補填されてしまう。
壁を伝う液体をせき止めてからじゃないとこの渦を解除できないが、隙間なく石レンガが積まれた壁自体、渦に阻まれて見ることができない。
『“鳥かご”起動。敵性体の捕縛を開始。神官は聖域から退避してください。繰り返します──』
祭壇から新たな攻撃の予告音声が流れる。
今更だけどこのナノマシンの群れを制御してるのはあの祭壇だってことは判明した。
もしあの祭壇が一つの大きな魔道機械だとしたら『オーバーホール』で分解することはできる。
修復した時に記録されている情報まで修復できるかはわからないけど、そもそもこのままだと帰還できるかどうか怪しいからな。やるしかないか。
「シルヴィア! 10秒でいい! 一人で渦食い止められるか!?」
「何とか!」
幸い祭壇自体は手を伸ばせば届く距離にある。
「今です!!」
シルヴィアの掛け声とともに渦に右腕を突っ込む。
砂山に手を入れているようなざらざらとした感触の中から、冷たい金属の感触をつかむ。
「『オーバーホール』!!」
崩れる祭壇の部品を後ろに跳んで避ける。
シルヴィアもぐっしょり頭から濡れてはいるがケガはないようだ。
「あっぶねぇ……。襲われる想定で作られてんのかよ……」
「こんなモンスターが私たちの身体を流れていたんですね……」
神殿だろ!? なんで要塞並に防衛機能を備えてんだよ!?
もし戦争が勃発していたとしても神殿は市民のシェルターになるくらいで中に侵入されるような施設ではないはず。
まあ、それだけ守られる価値が祭壇にあるんだろうな。
今はバラバラだけど。
もう一度触れ、祭壇を修復していく。
石壁に吸引されるように元の位置に部品がすべてはめ込まれると、鈍い起動音と共にモニターに青白い光がともる。
「再起動は……できたな」
中の情報も無事らしい。
俺たちの身体情報、ナノマシンの構造情報、マッドたちのハッキング記録──。
古代の文字列情報がモニターに流れていく。
『スキル一覧』からスキル『インデックス』を獲得し、祭壇の情報を移し替えていった。
「帰還しようか。まだ帰り道に何が起きるかわからないし早めに動こう」
「お疲れさまでした。帰ったらいっぱい労ってあげますよ?」
帰ったらシルヴィアのこともたんまり甘やかしてあげようか。
“遺跡”にまで怖がらずについてきてくれたし俺の代わりに渦も食い止めてくれた。
「いや、シルヴィアも甘えてくれていいぞ?」
「えへへ~アイク様のナデナデ、気持ちいいです……」
頭を撫でられてシルヴィアは猫のように目を細めた。
少しゆっくりしたら国王に報告したり、タスクをこなそう。
最近忙しかったし、何もない日をつくってもいいよね。
☆
“遺跡”探索から数日後、十分に休養を取った俺たちは国王とオレンヌさんに報告をしに向かった。
「──という情報と、ナノマシンのサンプルを採取してまいりました」
「なるほど……神への供物とな。他には?」
「マッドのハッキング記録が残っていました」
「あの無能がっ! どこまで迷惑をかければ気が済むんだ!」
マッドの名前を聞いてオレンヌさんが真っ先に顔をゆがめた。
この人よっぽどマッドのことが嫌いなんだな。
倒したときも大喜びで跳びあがってたもんなあ。
親でも殺されたんかな。
「よくやった。アイクよ。この情報は必ず我が国の利益となろう」
「ただ、国王様一つお願いがありまして」
「わかっておる。ナノマシンは兵器として利用しない。魔道機械はさすがに譲れんがな」
「ありがとうございます!」
自国民が傷つく兵器なんて使う意味ないしね。
これからナノマシン研究は歯車病の解明に集中できる。
この国王の発言でマッドの研究は全て無駄になったというわけだ。
あいつの研究はナノマシンと魔道機械の軍事利用だったらしいからな。
もはや歴史に名が残るというわけでもなくなった。
「おぬしには歯車病研究のすべてを任せよう。研究所も人員もこちらで用意する。その代わりしっかりと結果を残すように」
「ありがとうございます!」
国王の前では言えないけどただ一つ怖いのは、研究員ってマッドの元部下だった場合だ。
マッド信者いるからな。面倒くさい。
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