第41話 ”遺跡”へ
国王に謁見して数週間後、“遺跡”ニース──
「待て! この先は立ち入り禁止区域である! 即刻来た道を引き返せ!」
「許可証あるから。通るよ」
“遺跡”入り口で衛兵に許可証を渡すと、書かれている内容が真実であると気づいた兵から海が割れるように道が開いた。
驚いたような、うろたえたような情けない声が上がっているがおかまいなしに“遺跡”に足を踏み入れていく。
俺たちはマッドが手に入れたナノマシンが発見された“遺跡”ニースにやってきた。
「“遺跡”って呼ばれているのでもっと崩壊しているのかと思いました……」
「時代的には何千年も前の建造物だけど、俺らよりも栄えて発展していた文明の遺産だからね。現在の技術レベル以上の技術があったっていうし、丈夫なんじゃないかな」
あたりを見渡してみても天使の石像や、豪華な彫刻が施された円柱の一部が倒れているだけで歩いて調査する分には十分すぎるほど内部は整っていた。
まっすぐな廊下に等間隔に並ぶ円柱と壁に施された彫刻を見るにこの“遺跡”は神殿の役割を果たしていたとみて間違いないだろう。
もしかしたらナノマシンは神への供物だったり、歯車病は捧げものを捕らえた神の怒りだったり……なんてな。
人間の技術ではどうしようもないことを想像してしまい思わず舌打ちが漏れる。
もしそうだとしてもあきらめるつもりはない。
それに俺の『オーバーホール』だって歯車病によって手に入れたスキルだ。神の怒りなのに人間にスキルを与えるとか矛盾してるだろ。ありえない。
自問自答しながら歩くこと数十メートル、俺たちはかがり火の台座が鎮座している広間のようなところに出た。
「ここ、何か掘ってありますよ。文字でしょうか?」
広間を調査中、シルヴィアのもとへ向かうと、彼女が指さす壁面のプレートに文字のような幾何学的な直線の羅列があった。
「『サーチ・スコープ』で解読できるか?」
右手首のスコープを起動させ、プレートへ向けた。
『────、ここに奉ずる。供物をささげよ。祈れ。請い願え。帝国の繁栄を、栄光を。さすれば聖水をもって人外へ……』
「ここが神殿ってことは間違いないな。ただ……神様の名前が伏せられてるな……」
最後の方はかすれていて読み込めないだけだが初めの神様の名前が入るだろう箇所は文字自体はっきりと視認できているはずなのに『サーチ・スコープ』は読み込みエラーを吐き出していた。
やっぱりこのスキルたちが神からもらったものだから制限されている……?
「この聖水ってなんでしょうか? このあたりに泉ってありましたっけ?」
「いや、泉とかの問題ではないな……。マッドたちはナノマシンを溶液のような形で保管していたのはもともと液体だったからか……?」
とにかくここの記述だけではわからないことが多すぎる。
疑問を考えるのは後にして進まないと。
ただ、
「なあ、シルヴィア。調査している途中でこの先の通路、見つかった?」
「いえ、一面すべて壁でしたね……」
行き止まりか……。
ここの手掛かりと思われるものはこのプレートだけだったし仕切り直してもよさそうだな。
一旦来た道を引き返そうと振り向いた。
「あれ……来た道、なくね?」
そんな馬鹿な。いやそんなベタな!?
プレート解読に夢中になっていたから罠に気づきませんでした!? いや無音だったけど!? 壁が動く音なんてしなかったけど!?
打つ手なく立ち尽くしていた俺たちの目の前で天井が開く。
上層へとつながるその穴から舞い降りてきたのは、天使でも神でもなく機械の飛竜。
外の世界では存在しないモンスターだ。
赤く光るその眼で俺たちを捕らえると甲高い雄叫びをあげた。
「こいつを倒せば出れるってことだよな……。神殿ならすんなり入らせろよ」
「それはそうなんですけど……私はアイク様とダンジョンを冒険しているみたいでちょっと楽しいですよ」
「シルヴィアが楽しいなら文句はない!」
機械竜の真下まで走り、跳躍。
ブレスを溜めていたあごを掴み『オーバーホール』を発動した。
金属がこすれ合う音のオーケストラと化した部品たちが足元へ積みあがっていった。
それにしても“遺跡”来てても「楽しい」か……。
まあこれまで冒険者らしい依頼はエンジニアトロール討伐ぐらいしかやってないし、彼女にとっては冒険自体新鮮に映っているんだろう。
むやみに怖がってついてくるよりも楽しみながらついてくる方がメンタル的にも楽だ。
「さてと……これで前に進めるってことだよな……」
だが通路らしきものが現れる気配がない。
まだ何かあるか? それとも壁にドアノブでも出現したか?
向かいの壁を調べようと、部屋の中央を横切った。
瞬間、床に精緻な文様が広がる。
「次、上なのかよ!?」
部屋の床全体が盛り上がり、先ほど機械竜が舞い降りて来た天井へと吸い込まれるようにせりあがっていった。
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