第40話 戦勝報告
「なるほど。それで研究所にいたというわけか」
マッドを倒したのち押し寄せた王国軍に見つかった俺らは翌日、王城に呼び出された。
首を垂れる俺たちの前に鎮座している国王と、そばには側近が一人。
たしかオレンヌだったっけ。
「この度の討伐、いや犯罪者の処罰ご苦労であった。ギルドの依頼ではないため、そちらから報酬は出ない代わりに褒美として金3000万ゴールドと王都内の家一軒をそなたらに賜す」
「この活躍で王家並びに国の面子は保たれました。よくやってくれた! あの嘘つきには悩まされていたんでね!」
「あ、ありがとうございます……」
私利私欲で研究所に侵入していたのにまさか国も面子まで守っていたとはね……。
レポートとかナノマシンの注射器を持っていることは黙っておこう。ここは素直に喜んでおくべきだ。
王国軍の報告を盗み聞きしたところ、俺との戦闘でマッドが大暴れしたせいで魔道機械どころか、重要な書類の一部までズタズタになっていたということになっているらしい。
まあ、マッドの最後のあがきが俺たちの証拠隠滅に役に立ったというわけか。
俺らはマッドと王都内で遭遇して研究所まで逃げたことにしているしもうこちらから品雄に情報を出すのは危ないな。
「頭を挙げよ。それで……アイクといったか。おぬしはマッドに追放された魔道整備士で間違っていないな?」
「はい」
二つ名みたいに追放を使うなよ。普通に不名誉だろうが。
そう俺が心の内でつっこんでいることもつゆ知らず、国王は俺に疑惑の目を向けて来た。
「おぬしも罪を犯したのか? それとも別の理由で追い出されたのか?」
「俺自身は何も犯してはおりません。人並み以上の仕事を押しつけられ、真面目にこなしていたにもかかわらず、過小評価され追放されたしだいでございます」
「ふむ……オレンヌ。本当か?」
「ええ。そもそもあの研究所に魔道整備士はたった一人しか所属していませんので、相当の数メンテナンスを行っていたことは間違いないかと」
やっと俺の苦労が、理不尽な仕打ちが国王の耳にまで届いたんだ……!
研究所には俺への仕打ちの罪も償ってもらおう。
俺たちの目的はナノマシンの研究をやめさせることが前提にある。
その最先端を走る研究所が機能停止となれば研究自体衰退する可能性が高い。
国王は渋い顔で、
「やはり我が間違っていたか……。なぜあやつを指名してしまったのか……」
「いえ、国王様は間違ってはおられません。提供された情報、実績共に優秀な振りをしていたことは事実ですから」
「うむ……だが、かようなスキャンダルやそこの娘の人体実験を見ぬけんとは……」
「シルヴィアのことを知っているのですか!?」
実験レポートには名前は書いてあるけどもちろん素顔は載っていない。
計画表や他のめぼしい資料は俺が持っているし国王がシルヴィアの顔を見たことがあるわけがない。
「そこの娘はな、ここの中庭で開催した研究発表会の公開実験で出てきたのだよ」
国王の言葉でシルヴィアの身体が硬直したのが横目でわかる。
公開実験? 役人や実力者たちの前でシルヴィアはこんな辱めをうけたのか……?
いやそれよりも、
「なんで実験を止めなかったんですか!? 人体実験ですよ!? 国王自ら禁止したものですよ!?」
道徳的に問題がある人体実験を禁止した国王自身がマッドを見逃したとかとんだお笑い草だよ。
マッドのことさんざんけなしていたくせに同類か?
「おぬしも研究所にいた人間なら知っておろう? 研究発表会は国王指名研究所の発表は本番まで非公開だ。もちろん我にたいしてもだ」
「つい感情的になってしまいました。無礼お許しください……」
研究発表会は国王指名研究所の前座としてその他の研究所、ギルドの成果の披露がある。
前座は国王の御前で発表するにふさわしい内容か審査されるのだが国王指名研究所は機密情報漏洩を防ぐために発表内容が本番まで伏せられている。
「それほどおぬしがその娘を大切に思っているということだろう。愛ゆえの暴走をとがめるほど我は野暮ではない」
「あ、あい……アイク様の愛が……暴走?」
しゅんしゅんと蒸気を噴き上げていそうなほど顔を赤らめてシルヴィアがうわごとのようにつぶやいた。
こう真正面から愛とか暴走とか言われるとさすがにむずむずしてくるな。
俺がシルヴィアのこと溺愛しているみたいじゃないか! あってるけど!
「うむ、この度の活躍、そなたのこれからの人生の大きな武器となろう。何より国の尻拭いすらできる人物だと知らしめたわけだからな。最後に一ついいかね? おぬしらの望むものはなんだ? この我にできるものであればそれも褒美として付け加えよう」
「国王様がここまで慈悲をくださるのは珍しいことですぞ! よく考えるように!」
「ありがとうございます! では“遺跡”を調査する許可をください」
間髪入れずに口にした俺の回答にオレンヌの目が飛び出さんばかりに見開かれた。
国王も顔には出していないが身体を引いて驚いているようだった。
「自分が述べたことを理解しているのですが!? 危険すぎます! 今まで正気で帰還した人間はいないのですよ!?」
俺たちの目的は変わらない。
“遺跡”からナノマシンが採取された以上、“遺跡”には必ず手掛かりが眠っていると確信している。
だからこそ俺もここだけは譲れない。
「俺たちの目的はナノマシンの解明と歯車病の根絶です。“遺跡”でナノマシンが発見されている以上、いかないわけにはいきません」
「ですが……優秀な人間を行かせるなど……」
「許可する」
「国王様!?」
「ナノマシンの危険性はマッドで理解した。おぬしが望む形で目的を果たして来い。こちらも相応の支援をしよう。国としても兵器として使うことは禁止とする」
俺はもう一度首を垂れ、感謝で震える声で言った。
「ありがとうございます。この身に代えてでも達成する所存です……!」
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