第35話 投獄と置換【マッド視点】
「なんで俺が捕まんだよ! 盗んだのはメリッサだろうが! 俺は被害者だ!」
「その機密情報をロレーニアなんて田舎町まで肌身離さず持ち歩いていた馬鹿はお前だろう?」
鉄格子の外から国王とオレンヌの嘲りの声が響く。
メリッサの部屋で気を失ったのち、目が覚めるとそこは監獄だった。
罪状は機密情報の持ち出しと暴漢らしい。
機密情報を盗んだのはメリッサだし、暴漢もあいつの言いがかりで俺自身何もやってないはず……。
俺はあいつに殴られて研究所の鍵を盗まれた被害者なんだよ!
なのに国王は俺の主張も聞かずに有罪にしやがった!
「俺は国王指名の研究所所長だぞ! 俺が捕まったら国王あんたの信用もなくなるんじゃねえのかよ!!」
「何を言っている? 捕まえる前に国王指名は解除しておる。つまりお前はただの研究所所長の時に罪を犯していることになっておる。あと、発言には細心の注意を払えよ。王家反逆罪でも捕まりたいのか?」
「クソが……!」
ひとしきり俺を嘲笑うと看守に何やら指示を出して帰っていった。
チクショウ……誰か、メリッサを捕まえて俺が無実だってことを証明してくれる奴がいれば……。
まただ、また研究員が俺の邪魔をした……!
アイクだけじゃなくメリッサまで……! あいつには研究員の仕事も、ブランドの服も家も買ってやったんだ! その恩があるはずなのに……裏切られた!
もう人間は信用できない。
──投獄2日目
右腕に違和感が出てきていたからメンテナンスの準備をしているとルイが血相を変えて駆け込んできた。
「マッド! メリッサがとんでもない物まで盗んでいきやがった!」
「んだよ……俺はもうお前らとは関係ねえんだよ」
「研究レポートと計画表が盗まれたんだよ! あれがないとお前の無実の証明ができないだろ!?」
「何!? 今すぐメリッサを探せ! 早く!!」
研究レポートはともかく計画表はまずい。
研究室の使用記録からその日の達成度まで研究の根幹情報を記しているのが計画表だ。
ロレーニアへ向けて出発した日の鍵の持ち出し記録さえあれば機密情報漏洩の罪は無罪だと証明できる。
そしたらあとはメリッサを捕らえて俺が襲っていないことを自白させればいいだけの話になるってのに……。
どうしてこうも俺の望まない方へと向かっていくんだよ……!
俺がなにをしたっていうんだ。無能を追放して、俺のために働く奴らを集めて、トップに上り詰めようとしただけじゃないか。
一番合理的な道で上り詰めただけの何が悪いんだよ!
──3日目
今日も飯は出てこなかった。
囚人は餓死しなければいいと思っているらしい。
あのポンコツな研究員どもでメリッサを捕まえられるのだろうか。
俺の目の前に現れたら即刻その首をはねてやる。
右腕の違和感は相変わらず続いている。早くメンテしないと
──5日目
やっと飯が出てきた。
硬いパンに申し訳程度の干し肉が入ったスープじゃあ腹は満たされない。
飯は5日に一回なのだろうか。それとも配給される曜日が決まっているのだろうか。
こんな飯じゃあメンテの一つも……。
──10日目
やっと飯が出てきた。
腕が痛い。おなかすいた。
無実を……早く……。
腕が痛い……。
──1?日目
ウデ……イタイ……。
イタイイタイイタイイタイ!!
ドウシテドウシテドウシテドウシテ!
オレガ!!
『個体名:マッドの人格停止を確認。ナノマシンよりバックアップ人格をロード。──完了。タイプ:アレス起動。個体:マッドを再起動します』
空腹でかすむ頭に無機質な音声が響いた。
「うん? 腹が減ってない……?」
それどころか投獄前よりも体が軽いような……?
ってか首から下が機械化している……?
この身体なら脱獄できる!?
もう無理だ! 餓死する! それならいっそ脱獄犯の汚名を着て生き延びる方が何倍もましだ!
「こんな鉄格子なんて!」
鉄格子を掴み、力を籠めると、けたたましい金属音をたてて人が通れそうな隙間ができた。
これならあいつらまで捕まえられるんじゃないか……?
「俺はまだ終わっちゃいな──」
全身を痛みが駆け巡る。
なんなんだよ! これからっていう時に!
時々くる痛みの波に意識が持っていかれそうになる。
『タイプ:アレス起動完了。意識の置換を開始します』
おいなんだよ! 意識の置換って!? 俺が!? 俺でなくなるのか!? おいどういうことだ──
『置換完了。タイプ:アレス行動開始』
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