第34話 成果物探し【マッド視点】
「全くルートヴィヒだったか? 何やってるんだまったく……」
「まあでも彼のおかげでアイクの居場所が分かったわけだし及第点でしょう。冷静にならないとまともな判断できなくなるわよアイク」
ふん、それで腕を分解されるまでやられてたら意味がないんだよ。俺は捕まえろって命令したはずだからな。
ったく俺たちの命運がアイクにかかってんだ。あいつがナノマシンの実験の成功個体だってことはルートヴィヒの手紙でわかった。未知のスキルを所持し、歯車病の進行も遅い。俺たちが望んだ成果物だ。
「で……このロレーニアにいるのか本当に?」
「いるはずよ」
「はずってなんだ! 俺が直々に出向いてやってんだぞ! 確実な情報をよこせよ!」
「ごめん……そうね、ルートヴィヒによればここに住み着いているそうよ」
まったくどいつもこいつも自信なさげにしやがって。面倒なんだよ本当の情報と可能性の情報の区別がつかないから!
早足で町の門を通り過ぎるとそのままギルドへ向かった。
なんともつまらない町だ。ありきたりで辛気臭く活気がない。
俺はこんな町にいる人間では本来ないのだ。
さっさとアイクを見つけて捕まえて研究に戻ろう。
そしてさっさと俺の地位を元の状態以上に挙げるのだ。
「おいそこの受付嬢」
「はい、なんでしょうか?」
「ここにアイク・レヴィナスってやつはいるか? うちの研究品なんだが」
「いえ、そのような方はいらしておりません。では、私はこれで」
「ちょっと待て!」
そそくさとその場を離れようとする受付嬢の腕をつかみ強引に引き寄せる。
思わず、豊かに揺れる胸元に目を奪われるが、すぐさま目線をそらした。
「やめてください。冒険者様の情報はギルドの方から守秘義務が命じられております」
「ここで冒険者の情報が得られないんじゃあどこで手に入れろっていうんだよ!」
「外部の方にはお教えできないというだけです。お引き取りください」
「俺は国王指名の研究所所長だぞ!」
「無理なものは無理ですお引き取りください」
「っく貴様……!」
もしかしてこの受付嬢、俺のすごさがわかっていないんじゃないか?
国中に俺の名が広まっていないのは癪だがこんな田舎町だ。情報が来るのが遅いんだろう。
「国王指名の研究所はこの王国にただ一つだ。んで俺はその所長。そのくらいはわかってるだろ?」
「存じておりますがギルドは王国から半ば独立した団体です。いくら王国での地位が高かろうとギルドの規則に変わりはありません」
何がギルドだよ! 一人の所長の要求にもこたえられないで何が人びとの依頼をこなす庶民の味方だよ!
でも、この受付嬢も所詮女だ。少し金と性をちらつかせてやれば簡単に堕とせる。
服従させてやれば守秘義務など真夏の氷のように消え去るだろう。
露骨に嫌な顔をしている受付嬢を壁に押しつけ、耳元にささやく。
「わかった。アイクのことはもういい。俺はお前に興味がある。フレンといったか。30万ゴールドで俺の部屋に来ないか?」
「ナンパですか? 申し訳ございません。私には心に決めた人がいるので」
「30万だぞ!? お前の年収と同程度の金だぞ!? 国王指名の所長の誘いを断んのかよ!」
「もう一度申し上げますが私には心に決めた方がいるのでお断りさせていただきます。もしこれ以上私を拘束するのなら後日ギルドの方から国に報告いたしますが」
「小娘が……!!」
ギルドという後ろ盾さえなければ今すぐ押し倒してその貞操を奪ってやるのに……!
どいつもこいつも俺のことをコケにしやがって!
だから田舎は嫌いなんだ! この娘みたいに俺のことをなめ腐っている奴らであふれているから!
結局、ギルドでも町の宿屋でもアイクの情報は見つからず、おとなしく宿屋の自室に戻るしかなかった。
「メリッサ、部屋入るぞ」
「ちょっと待って! 部屋勝手に入らないでって言ってるじゃない!」
「うるせえ! 入るぞ」
田舎の小娘にコケにされてストレスたまってんだ。
女のストレスは女で発散するに限る。
「いいわよ。それで何の用?」
「ベッドはどっちだ?」
「えっ? そういうこと? 今日はちょっと……」
「いいから黙って抱かれろよ!」
メリッサの腕をつかみ寝室に向かおうとした矢先、後頭部に鈍い衝撃が走った。
かすかな血が流れる感覚と共に視界が暗くなる。
「自業自得よ」
それがメリッサの最後の言葉だった。
翌日、メリッサの部屋で発見されたのは間抜けにも床で気絶していた俺だけだったという。
メリッサは俺に襲われたという置手紙を残して、俺が持っていた研究室のカギを盗んで失踪しているそうだ。
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