第33話 ゆっくりするなら実家が最強

「俺とシルヴィアで母さんを直すから」

「無理よアイク! いろんな魔道整備士の人を呼んだけど誰も母さんはもう無理だって言ってたのよ!?」

「シルヴィアと俺のスキルならできるから。見てて」


 それから、俺とシルヴィアのスキルを使って母さんの歯車病を発症した時の状態になるまでメンテナンスしていく。

 シルヴィアの『聖者の右腕』で欠損した部品を取り戻し、俺の『オーバーホール』修復していく。

 あっという間に母さんはしっかり歩けるくらいにすっかり元気を取り戻した。


「ありがとうアイク……ありがとう……」

「すごい……! アイク様と一緒に直せるなんて……」

「これで数年は整備士呼ばなくても大丈夫だから。治ってよかったよ」

「アイク~! すごいわ! ありがとう! それと……シルヴィアさんも……」


 ミアは少し照れくさそうにミアにもお礼を言い、頭を撫でた。

 さっきはいきなりで驚いてシルヴィアに対して敵意むき出しにしていたけど、これで少しは仲良くなれたかな。


「ごめんなさい……取り乱したわ……」

「いえ。気にしないでください。ミアさんがどれだけアイク様が好きなのかがわかりました」

「そうなの! アイクは私の最愛の弟よ! だから、あなたに独り占めはさせないわよ!」

「え……!?」

「アイクは私の弟だから渡さないって言ってるの!」

「アイク様は私の旦那様ですから!」


 うん、喧嘩するほど仲がいいってことにしておこう。

 これから家族になるんだから、仲良くしないとな。


「アイク、今日は泊まっていきなさい。張り切って夕食作るから、ゆっくりして言ってちょうだい」

「ありがとう母さん」


 まだシルヴィアのことも話してないし、久しぶりに我が家に帰ってきたからには堪能しないとな。

 母さんも歯車病以外は元気そうだし、動作確認もかねて料理をふるまってもらおう。

 浮かれた足取りでキッチンへ向かっていった母親の後姿を見送って俺たちはテーブルの席についた。


「ほら、アイク様。あーん、ですよ?」

「アイク、こっち向いて。あーん、しなさい」

「両側は無理だって……落ち着いてくれ……!」


 母さんが腕によりをかけて作った料理を前にして、俺はシルヴィアとミア姉さんからなぜか餌付けされていた。

 好きでいてくれるのはうれしいけど、やられてばかりってのも癪だな。


「シルヴィア、ほら。お返し」

「えっ!? アイク様……お顔が、近すぎます……!」

「愛しの旦那様からなのに食べてくれないの?」

「いえ、そういうわけじゃなくてぇ……」

「なら、問題ないでしょ? ほら、あーん」

「むぐ……おいひいれふけど……はずかひい……」


 その恥ずかしいことを俺にしたんだけどね。

 いつもは自分がグイグイ攻めているから攻められるのには慣れていないみたいだ。

 攻め甲斐があるよ本当。


 顔を赤く染めながらもぐもぐ咀嚼するシルヴィアを眺めていると、


「ねぇ~アイク、私には~?」

「はいはい」


 ひな鳥のように口を開けて待っている姉さんにも餌付けする。

 まだまだ弟離れはしてくれなさそうだ。

 ということはシルヴィアとの修羅場がまだまだ起こりうるということ。

 どうにかして今日仲良くなってくんないかな……。


 3人を眺めていた母さんはふふっ、と笑いを漏らすと、


「ミア、もう気づいているでしょう? あなたの好きな弟は結婚したくらいでいなくならないわよ。それにアイク自身が決めたことなんだから私たちがとやかく言う権利はないでしょう?」

「むぅ……そうね。結婚を祝福するわ。そのかわりシルヴィアさん、一つ提案があるのだけど」


 俺を跳び越えてシルヴィアとミア姉さんの視線が交差する。


「私とアイクを半分こしない?」

「ちょ、はあ!?」

「あなたとアイクが一緒の時はイチャイチャしてもいいけど、私がいるときは私に頂戴?」

「むう、その代わり結婚を認めてくれるんですね……わかりました。ただしアイク様の側に私がついていることが条件です」

「まあ、いいよ。俺もみんなでにぎやかに過ごすのは嫌いじゃないし。じゃあ、俺は寝るから。母さん、おいしかったよ。ありがとう」


 母さんに礼を言って久しぶりの自室に戻ろうとした矢先、両隣から熱い視線を感じた。


「寝るって……その、私はいつでも準備できてますから」

「結婚したてで寝るとか、アイクって意外とダイタンなの……?」

「うん? 母さんだってメンテしたてだし、俺らも疲れもあるから早めに寝ようとしただけだけど?」


 なんだか勘違いされているような……?

 話が噛み合っていないというか……。

 何で二人とも赤くなってんの?


「二人とも変な妄想してないで寝なさい。疲れているんでしょう?」


 母さんが呆れた顔で俺たちを見てるけど、なんでなんだ?

 まあそういう感じで俺たちは二日目も実家でまったりしていた。

 久しぶりの休暇を楽しんで、次へ向かうエネルギーを十分に充電したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る