第27話 トラウマ級ナノマシン

 ──ギルド、メンテナンス室。


「じっとしててくれ」

「痛くしないですよね……?」

「大丈夫、見るだけだから」


 検査される箇所を見ないようにシルヴィアがそっぽを向いた。

 検査といっても『オーバーホール』に統合されている『サーチ・スコープ』でスキル詳細を確認するだけだ。

 今朝のことをまだ引きずっているらしい。


 呆れたように笑いかけながら『サーチ・スコープ』を起動する。

 シルヴィアを裏路地で助けたときには文字がすべて伏せられていたけど、スキル名が判明した今なら詳細まで表示されるはずだ。


 左手首にせりあがった長方形のスコープ越しに、彼女の右腕を覗いた。


『スキル:『聖者の右腕』

 対象者の機械化部分を修復。修復許容限度を超えた場合、過剰修復となり素材レベルにまで分解される。

 なおこの能力はナノマシン同系列個体へ使用時、消費時間が半減される。』


 なるほど、俺の腕を直したときも痛みが出てきたのもスキルのデメリットだったらしい。だが、このスキル、回復スキルとして見るのではなく戦闘スキルだとしたら、俺の『オーバーホール』と同じように魔道機械に壊滅的なダメージを与えられる。

 壊して直すか直して壊すか。

 なんとも似通ったスキルが発現したものである。


「終わったから、もう目開いていいぞ」


 痛みに耐えるようにぎゅっと顔のパーツを中央に集めていたシルヴィアに声をかけこちらに向かせた。

 落ち着かなさげに目を泳がせるシルヴィアの手をそっと握る。

 子供に読み聞かせるようにゆっくりとスキルについて説明した。


「そんな危ないスキルが……。やっぱ私、危ないですよね。こんなことになるなんて……」


 恨めしそうに右腕を強く握りしめていた。

 彼女にしたらとんだ災難だろう。

 村のためにとマッドたちの実験に参加させられ右腕に歯車病を発症、無意識に人を傷つけてしまっただけでも心の傷となって消えないほどの経験なのに加えて彼女自身に人を傷つけてしまうスキルまで発現してしまった。

 シルヴィアがここまで臆病になってしまったのは仕方のないことかもしれない。

 ただどうしても彼女に対して実験を行った責任はマッドにある。


「シルヴィア、危ないスキルなんて俺と同じってだけだ。それにそのスキルのおかげで俺は救われたんだよ。それは紛れもない事実だろう? だからそんなに自分の身体を恨むなよ。俺と一緒にいるんだろ?」

「こんな危険な私でも隣に置いてくれますか? もう、捨てないですか?」


 彼女の頭を引き寄せた俺の胸元がかすかに聞こえる嗚咽と共に湿り気を帯びていく。

 ひとしきり慰めている間にもこれからの計画を考えていった。


 まずルートヴィヒの日記を見るにまだマッドはナノマシンの研究をあきらめていない。

 このままナノマシンの研究が進めばシルヴィアのような被害者が増えるだけでなく世界のパワーバランスが崩れてしまう危険性もある。

 魔道機械を壊滅させられるスキルを量産できるナノマシンなど、この国だけでなく各国がこぞって手に入れたがるに違いない。

 戦争となればこのロレーニアも戦火に包まれるかもしれない。


「止めるためにもまずは、あれの解析か……」


 メンテナンス台の上にはルートヴィヒから奪ってきたナノマシン注射器がある。

 マッドの研究所に乗り込むにはまだ装備も金も論破する論理もない。

 国を味方につけれたら最高。

 最低でもナノマシンの詳細については理解しておきたい。でないとマッドからナノマシンを奪ったとしても後処理に困ってしまう。


 そのためにも解析は今すぐにでも手を付けたいのだが、


「ちょっとは落ち着いた?」

「はい……。ありがとうございます。アイク様の身体ってこんなにも大きいのですね……」


 俺の胸に額をこすりつけるシルヴィアを横目に『サーチ・スコープ』をもう一度発動する。


『ナノマシン:世界各地に出土する遺跡から発掘。遺跡にある──から漏れだす。その──は──の──と共に出現。人体が摂取した場合、──歯車病が発症する。』


「さすがに全てはわからないか……」


 俺がため息をつくと、シルヴィアは顔をあげて、俺の隣に座る。


「これから、どうなさるおつもりですか?」


 シルヴィアの無邪気な問いにうーん、とうなると、


「遺跡の調査は必要だと思うんだが、調べつくされた遺跡に行っても何も残ってないと思うんだよな」


 これまでにもこの国だけで年に数か所は発見されている。その発見を待ってもいいが遺跡の調査に参加できるとは限らない。

 新規の魔道機械や古代のお宝目当てに冒険者から貴族、盗賊までこぞって遺跡探検に向かうのだ。

 そのような状況だから王国も大規模な遺跡には国王指名の調査団を派遣して国の利益を守ろうとしているのだ。


 あごに手を当てて何とかして遺跡調査に参加しようと考えていると、フレンが血相を変えてメンテナンス室に飛び込んできた。


「アイクさん! ボルドー鉱山の討伐クエストに参加してください!!」


 ボルドー鉱山という単語が聞こえた瞬間、シルヴィアは勢いよく立ちフレンに詰め寄った。


「お父様は!? 村のみんなは無事ですか!?」

「一応亡くなった報告はありませんけど……一回落ち着いてください。どうしたんですか急に?」

「私の故郷なんです!!」


 ──────────────────────────────────────

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