第24話 メンテナンス初心者【マッド視点】

 俺がナノマシンによって腕を取り戻してから数日、研究所内には焦りに満ちた空気が渦まいていた。

 実験の準備もアイクの捜索も何一つ進展がない。

 手際が悪すぎるのだ。メンテナンスにしても優秀な俺なら1日もかからずに終わらせる程度のものを回してやってるにもかかわらずその仕事だけで数日無駄にしているのだ。

 なぜこいつらを雇っているのか疑問に思うほどに無能しか所属していない。

 俺の地位が高い位置で固定された暁にはメリッサのような確定で使える女職員以外は国内外からの優秀な研究員を呼び寄せてもいい。


 苛立ちに震える手で実験計画を組みなおしていると、所長室のドアが勢いよく開け放たれた。


「所長! ルートヴィヒからの書簡が届きました! ですが──」

「お前の話など聞いてない! 早くよこせ!」


 もの言いたげな顔をしたまま突っ立っていた研究員から手紙をむしり取り、手紙に折り目が付くにもかかわらず便箋を強引に破り捨てた。


『アイク様

 昨日、ポワティエ・ロレーニア間の街道にてアイクと思われる人物と接触いたしました。みすぼらしい服装に左腕が機械化していたためほぼ間違いないでしょう。

 やってきた方向を見るにロレーニアを拠点としていることは間違いないようです。

 その場でとらえようと試みましたが、そこで想定外のアクシデントが発生しました。

 アイクが未知のスキルを発動したのです。

 理屈はわかりませんが激しい痛みと共に私の機械化部分が分解されてしまったのです。修繕に時間がかかるため、少しの間療養させていただきます。

 ナノマシンの副作用でしょうか。だとするならば、ナノマシンを軍事利用することのできる可能性が出てきました。

 さらなる情報収集のため、アイクを捕獲してまいります。

 戻りましたら余っている仕事をすべて私にください!』


「分解する未知のスキルか……」


 厄介だな。ルートヴィヒに持たせたのは『遮音』の魔道機械と『エレキネット』の魔道機械のみ。気づかれると捕獲手段を壊されてしまう可能性が出てきたため、不意打ちを狙わないといけなくなってしまったことがアイク捕獲の難易度を大幅に上げてしまっている。

 だが俺が手塩にかけて育成してやったルートヴィヒのことだ。うまくやってくれるだろう。この研究所の元所長の肩書は彼の能力の高さを表している。


 この件はルートヴィヒに任せるとして、俺たちは何としてでもナノマシンの解析に取り組まなければならない。

 人間に歯車病を発症させるだけでなく通常では発動しないスキルも発動するようにしてしまう性質があるという仮説を検証しただけで価値があるのだ。

 もし、仮説が立証されてナノマシンを軍事利用できるようになれば、この国の力を底上げすることになる。

 そのような業績をあげれば国王からの信頼を回復できるだけでなくナノマシン研究の第一人者としての地位を確立できる。


 そろそろ実験の準備も終わってる頃だろう。

 実験室へ向かい声をかける。


「メンテナンスはまだか! 作業開始からもう3日たってんだぞ!」

「急ピッチで作業していますが、歯車病のメンテナンスや修繕と並行して行っているためまだ40パーセントほどでして──」

「ナノマシン研究で結果を出すことが急務なのはわかってるだろ!? 他の作業を捨ててでも実験の準備をしろ! メンテナンスなしで放っておいて何も変わらんから安心して取り掛かれ!」


 俺の言葉にあおられて研究所内のスピードが一段階上がる。

 遅すぎる。俺だったら1日もかからない作業が3日たっても半分も終わっていない。

 せっかく俺が名誉挽回させてやろうと仕事を与えているのに満足にこなせていない。

 こいつらは俺と研究所の危機の真っ只中にいることが分かってないのか?

 それとも理解するだけの脳が無いのか?


 実験室を見渡してみても、マニュアルを片手に右往左往している有象無象が群がっているだけで、何一つ作業が終わっていないにもかかわらず誰一人としてスピーディーに動こうという気配がない。


 いや、薄々勘付いてはいたが今この研究所にいる職員全員、メンテナンスや準備に慣れていないのだ。全てアイクがこなしてしまい俺たちのスキルアップの機会を潰してしまった。


「クソっ、またあいつのせいで……!」


 いるだけで俺の計画の悉くを無駄にしていきやがった!

 どれだけ俺を辱めれば気がすむ!?

 この研究所に入れてやったのも俺のおかげなのに!

 全て仇で返してきやがった!


 でももうあいつの居場所は判明したのだ。

 ルートヴィヒなら早々に連行してくるはずだ。

 そのためにもこちらで実験の準備は進めておかなければならない。


 一通り実験室を回り、檄を飛ばしていると背後から聞きなじみのない声がかかった。


「何も進んでいないじゃないか。私が国から派遣された意味はあれか? こいつらを嘲笑えばいいのか?」


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【あとがき】

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