第23話 闇夜の処理
『空走』で光のない街道の上空を跳び、ポワティエの門を軽々と越える。
ここまで約30分。
ポワティエも入り口に石造りの門があるくらいには大きな町なのだが、中心を走る大通りに面した酒屋やギルドが煌々と輝いているだけで、一歩路地に入ってみると湿気に満ちた暗闇が広がっている。
普通に探そうと思えばこの町の中からたった一人を探すなんて何日あってもできないだろう。
だが俺には『自動更新』と膨大な獲得可能スキルがある。
門の上に腰かけてスキル一覧を開き、検索をかけた。
俺の部屋やロレーニアではいつどこでルートヴィヒの関係者がうろついているかわからない。
かがり火の真下が暗いように、相手に近づくほど隠れていられるというわけだ。
『拡張ポイントを消費してスキル『生体追跡』、『夜目』を獲得しました』
頭の中で音声が流れたことを確認し、俺はポワティエを見渡した。
『夜目』のおかげで裏路地に吊り下げられている洗濯物の数までくっきりと見えた。
左手に持っているのはルートヴィヒの頭髪1本。
レッドワイバーン襲撃の時のいざこざにまぎれてくすねておいたのだ。
『毛髪から生体反応を感知、対象者の位置を脳内に直接投射します』
脳内に音声が響くと同時に視界に赤いシルエットが浮かんだ。
大通りに面した宿屋の3階角部屋。
「いいところに泊まってんな」
たった数日宿泊するくらいでも金を惜しまずに最高級の部屋をとるあたり、彼のプライドが相当高いことがうかがえる。
少しのイラつきを抱えながら、その元凶のいる部屋へと跳んでいった。
窓枠に着地し、聞き耳を立てる。
「私の部屋を訪ねてくるなと言っただろうが!! 貴様のミスで魔道機械が故障したらどうする! さっさと出ていけ!!」
ルートヴィヒの怒号が響き、平謝りする声と共に逃げ去るような足音が遠ざかっていった。
当然業務で訪ねて来ていたはずの従業員にまで怒りの矛先を向けるのは
当然業務で訪ねて来ていたはずの従業員にまで怒りの矛先を向けるのは大人げないだろ。
どうせ魔道機械といっても『遮音』の魔道機械くらいのどうってことのないありふれたものしか持っていないくせに。
「ドア側遮音したところでこっち側は筒抜けなんだよ。いることわかったし。やるか」
窓越しに『オーバーホール』を発動。
野太い悲鳴と共に甲高い金属音が鳴り響く。
『オーバーホール』が発動したことを確認すると、窓を蹴破りその勢いのままルートヴィヒを床に組み伏せた。
こいつは今、俺が処理しなければならない。
今後俺たちに手を出させないようにするまで。
それが俺の責任。
「アイクぅぅぅ!! 貴様、放せぇぇぇ!!!」
ルートヴィヒは残った左腕で金属球を構えたのもむなしく『オーバーホール』によって一瞬で分解されてしまった。
「何をした!? ワイバーンの時も今も! 貴様、何者なのだ!?」
興奮したように唾を飛ばしながらルートヴィヒはそう言った。
彼の瞳に映る感情は未知のものに対する恐怖なのか、研究者としての知的好奇心なのか、はたまたそれ以外なのかはわからない。
ただ一つ確実なのは、どちらにせよ俺を人としては見ていない。
「あんたらに実験動物にされたただの魔道整備士だよ。それ以上もそれ以下もない」
「実験動物なら研究所に戻れ! 貴様のデータでマッド様に尽くせ! それが義務だろうが!」
ゆっくりと組み伏せたルートヴィヒの襟を持ち上げる。
自分が、自分たちが正しく、他の間違った奴らを見下している顔。
妙に思考だけが冴えていた。
「追い出した側がなに言ってんだよ今更。追放したのも勝手。ナノマシン打って実験動物にしたのも勝手。それなのに今更帰って来いって? あんた俺の人生考えたことあるか?」
「知るか! 貴様もマッド様のおかげで研究所に入って金を稼いでいたんだろう! その恩返しはないのか!」
マッドのおかげ? よく言えたもんだよ。あいつらが実験したせいで壊れた魔道機械を直し、日々の膨大な量の魔道機械のメンテナンスをこなしているのに? あいつらから恩を売られていると?
首を掴みなおし少しずつ力を入れていく。
これは見せしめだ。俺たちに関わってくるな。
「おい! 助けろ! 誰か! だれかぁぁ──」
きゅっ、という音が漏れ、ルートヴィヒの身体から力が抜けた。
そのまま床に投げ捨てる。
「遮音の魔道機械で何も聞こえてねえよ」
ルートヴィヒは自分自身で首を締めさせたのだ。
遮音による密室、実験動物と呼ぶことによって俺の神経を逆なでさせ、首を絞める環境を作ったのはこいつ自身だ。
床に散らばった機械の破片をよけながら机にたどり着くと、一冊のメモ帳を発見した。
ルートヴィヒの日記帳兼計画メモのようだ。
中には、マッドと仕事に対する異常性癖だけでなく俺たちを襲撃する計画までもが綴られていた。
研究所から取り寄せた『挑発』の魔道機械で呼び寄せたモンスターにナノマシンを投与、暴走させロレーニアを襲わせ、その混乱に乗じて俺たちを捕らえようとしたらしい。
なぜ一般人を巻き込むのだろうか。たった2人の俺たちを捕まえるためだけに多くの人々の命と生活が脅かされようとしていた。
全てはマッドの責任だが俺にはマッドとの確執を終わらせる責任がある。
やつらを潰す責任が。
──────────────────────────────────────
【あとがき】
少しでも「面白そう!」「続きが気になる!」「期待できる!」と思っていただけましたら
広告下からフォローと星を入れていただけますとうれしいです。
読者の皆様からの応援が執筆の何よりのモチベーションになります。
なにとぞ、よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます