第21話 欲望のままに

 これは私の私的なレポートである。

 欲望のままに書き連ねているため多少興奮しているかもしれないが笑ってもいいから読み進めてほしい。いや読んで私に共感してほしい。お願いします。


 ある日私のもとに研究所から一通の手紙が届いた。

 王都から伸びる街道で馬車に揺られながら慎重に開封する。

 マッド様に命じられて試作品の不調を引き起こしたアイクとやらを捜索する任務を受けていた。そのことに関する追加の情報かもしれない。


『ルートヴィヒ

 

 まず、現状報告。

 国王の前で実験に失敗して研究所自体の首が飛ぶ危機にある。

 それに加えてナノマシン実験の被検体の娘が行方不明。その娘の能力で俺の左腕が消えた。

 そこで追加の仕事だ。

 娘の行方を探れ。金も移動手段もないからそう遠くにはいないはずだ。

 アイクと共にとらえてこい。

 どちらも顔は知っているんださっさと捕らえろ。                 』


 無駄な装飾のない淡白な文章で私が使い走りになることがつづられていた。

 馬車の料金も宿屋代ももちろん自費である。

 そんな普通の人間から見ると不幸の宣告のような手紙を私は両手でしっかりとつかみ、抱きしめた。


「マッド様の御心のままに……! 勅命をいただけたこと、光栄に思います!」


 また私に仕事が舞い込んできた……! マッド様に利用される存在になれたのだ! 

 ああっ、神よ! この私に快感を与えてくださった神に感謝を!


 ご自身は研究所に戻られながら部下を馬車馬のようにこき使うそのご様子! 解釈一致です!


 私は働きたいのだ。上司の命令に従い理不尽な命令と不条理な説教を受けながら毎日疲弊しながら仕事したい!

 理不尽、不条理! なんてよい言葉だろうか!


 感極まって叫びだそうとしたが御者の冷めきった目線に邪魔されてしまった。


 侯爵家の嫡男として生まれた私には上司がいることすら新鮮なのだ。王族はめったに顔を合わせないから上司というのは違うのかもしれない。

 生まれてからマッド様に出会うまで他人に命令することはあっても私と張り合ったり、上の立場からものを言ってくるような人間は皆無だった。


 それではつまらないのだ。

 競争相手がいないだけでモチベーションというものは生成量が半分以下になるらしい。前国王指名研究所の所長となっても空気が締まらず、これといった成果を出せないまま日々を過ごしていた。


 そこに颯爽と現れたのがマッド様だ。

 独り身で怠惰に所長という地位に限りついていた私を、見せつけるように女を侍らせながらその才能をもって悠々と超えていったのだ。


 まさに理想! 最高の上司が舞い降りたのである!

 あの他人を人間とは見ていないような冷酷な視線に自信に満ち溢れた高慢な物言い!

 まさに私をこき使ってくれるような逸材!


「あぁ……あなた様は私の目の前に現れたときから傲慢で美しかった……」


 彼が入所してきてすぐ私は所長の地位を譲った。

 私の欲望もあるが、この大抜擢に誰も文句を言えないほどに彼は魔道機械に関する知識も研究員としての才能も1流だったのである。


 そこから私の楽園のような仕事が始まったのだ。

 そしてそんな幸せの中舞い込んできたのが今回の発表会。


 国を挙げてのイベントに向けて研究所内が慌ただしく動いている中、私も彼の右腕として仕事をこなしていったのである。


 本番前の整備不良の件も試作品のメンテナンスについての忠言もすべて私が忙しくなるように仕向けるための発言だった。


 しかしそこで予想外なことが起こった。

 マッド様が実験失敗の責任がある魔道整備士にあることを突き止めたのである。


 実験失敗を示唆していた私はもちろんと言わんばかりにマッド様の八つ当たりの標的となった。

 ここまでは罰というよりもむしろご褒美だったのだがある命令が下されたのである。

 私がその魔道整備士、アイクを探す羽目になったのである。


「おのれアイク……! マッド様の名誉を傷つけただけでなく私の欲望の邪魔までするとは……やるのだったらうまくやれアホが……!」


 私が探しに行くことになれば仕事量が減るじゃないか! 無能として追放された奴に私の欲望を妨げる権利などないのだ!

 アイクさえいなければ今頃試作品の修繕や魔道機械のメンテナンスで2日徹夜くらいの仕事をこなしていたはずなのに!


「すべては私の欲望のために……!」


 私も大概、他人を人間として見ていないのである。


「もうすぐロレーニアです。降りる準備をお願いいたします」


 御者のやる気のない間延びした声がかかり、私の意識は思考から切り離されてしまった。

 ロレーニアは初心者の冒険者や見習いの職人たちが集まる始まりと修行の町。

 戦闘能力のない彼が冒険者に転身して住むには適している町ともいえる。


 私にはマッド様という後ろ盾があるのだ。あんな小さな町の事情など容易に入手できる。

 さっさと捕らえてマッド様に新しい仕事をもらいに行くとしよう。


 そう心に決めた瞬間、目の前が業火に包まれた。


「レッドワイバーンだ!!」


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【あとがき】

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