第19話 的外れな復讐の準備【マッド視点】

「アイクの消息はぁ!?」

「まだ有用な情報はありません!」

「娘の情報はぁ!?」

「まだ、ありません……」

「何をしているこのウスノロが! 早く奴らを捕まえろ! 特にアイクだ!」


 史上最悪となった発表会を国王への平謝りで終え、研究所に戻ったものの俺以外の研究員には普段の生活に戻る気力も図太さもなかった。

 たった一度の失敗でこれまでの研究成果が水の泡となってしまったから仕方ないのかもしれない。

 しかし行動しない限りどんなに優秀な俺でも何も変えられないのも事実。


 心が弱い奴は現状を何一つ変えられない。

 俺が見込んで選んだ研究員のくせにこのくらいでへこたれんなよ。


「どいつもこいつも雑魚じゃねえかよ。クソが!」


 苛立ちを隠せないまま所長室入るとメリッサが俺のデスクを覗き込んでいた。

 こちらに気づいていないのか熱心に書類を調べているようだ。


「何をしている。そんなに俺のデスクが気になるか?」

「あっ、マ、マッド! いたのね! ちょっとねアイクの生まれ故郷を知りたくて」

「そんなものはない! あんな役立たずの情報など価値なんてない」


 どいつもこいつも俺の気に障るようなことしやがって……!

 研究員なら所長の顔ぐらい立てて当然だろうが!


 じりじりと後ずさりするメリッサを強引に引き寄せる。


「お前、今日俺の部屋に来い」

「い、いやよ。名誉挽回するって言っていたじゃない。そんなことにかまけている時間なんてないわよ」

「これは確定事項だ。それとも実験動物にされたいか? まだナノマシンのストックは十分にあるんだぞ」

「わ、わかったわよ……その代わり早く済ませて。尻はなしよ」


 前までは俺に従順だったメリッサすら文句を言うようになってしまった。

 全ては発表会の失態のせい。

 全てはアイクのせい。


「アイク、待ってろ。必ずお前を捕らえる……!」


 アイクの小細工のせいで俺たちの研究は狂わされたのだ。

 ただメンテナンスなんて簡単な仕事をこなしていた奴に俺の研究の偉大さなどわからなかったのだ。

 研究所の体裁として魔道整備士が必要だったから雇っただけだったがそこから俺は間違えていたのかもしれない。

 どうせいてもいなくても何も変わらない奴だ。

 いや、災厄を呼ぶ疫病神だった。


 徹底的に叩きのめす。

 俺に逆らったこと、俺たちの人生を危機にさらしたことの恐怖を骨の髄まで教え込んでやる。


 そのためにもまずは、


「左腕を取り戻すぞ」


 実験をするにも、アイクを殺るにしても両手があったほうが便利なのは明白だろう。

 あの娘に消し飛ばされた腕の断面はまだ痛みが残っている。


「どいつもこいつも俺に従わねえのかよクソッ!」


 ポケットから取り出したのはメリッサから奪い取ったナノマシンの注射器。

 アイクに反抗する力を、娘に俺の腕を消滅させた力を与えた代物だ。俺の左腕をよみがえらせる、あわよくばさらなる力を与えてくれるかもしれない。


「いいぜアイク。俺を怒らせたことがお前の人生の終わりだ」


 震えた手で力強く握りしめた注射器をランプの光に透かして眺める。

 この液体、このナノマシンで俺はお前を絶望に突き落とす!


 グサッ!

 ビキビキビキビキ!!


「ぐあああああああああ!!!!!いってええええええええ!!!」


 全身を焼けるような痛みが駆け巡り俺は思わず崩れ落ちた。

 涙目であたりにを見渡すが所長室に俺以外がいるはずがない。

 助けを呼ぶにも痛みで全身の筋肉が硬直してしまいうまく声を出せない。


 俺、このまま死ぬのか……? 何も成果なしに死ぬのは嫌だ……!


 悶絶する身体をよそに俺の意識は暗闇へと落ちていった。



 ◇



「──っつあ。クソ痛てえ」


 俺はデスクの前で地べたに寝転んだまま気を失っていたようだ。

 窓の外を見る限り数十分といったところか。


「マジでなんだったんだ……」


 注射器は俺が悶絶しているときに踏んづけてしまったのか粉々に砕け散っている。

 この注射器だって安くないのだ。今の俺と状況でこのことがメリッサに見つかったらムカつくことを言われるに違いない。

 壊した事実を隠蔽しようと両手で注射器の破片をかき集めた。


「──ん? 両手があるう!?」


 痛みの衝撃ですっかり頭の奥底に追いやられていたが俺は腕を取り戻すために実験をしていたんだった。

 慌てて身体の左側面を確認するとそこには黒光りする機械腕が生えていた。

 実験は成功だったのだ。


「ははは……待っていろアイク!! お前を叩きのめす準備は整った! 必ず探し出してこの世の絶望というものを味わせてやる!」


 機械腕となっている両腕を眺めて俺は誓う。

 この両腕でこの世の名誉と金をすべてつかみ取る、と。

 大きくたっていいだろ。これは俺の運命なんだよ。頂点に立つという名のな。


 アイク、お前を絶望の底に追いやるのは俺のストーリーの初まりに過ぎない。

 所詮お前はただの一般人なんだよ。

 俺が成り上がるところを指をくわえて見ているんだな。



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【あとがき】

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