第18話 頼りにされる感覚

「はあっ!? 危ないからついてくんなって言ったじゃん!」

「一緒にいるって言ってくれたもん! 約束破るんですか!?」


 俺とシルヴィアはロレーニア郊外の草原で……口論していた。

 外にはもちろん魔物や盗賊が自分たちのテリトリーだというように意気揚々とうごめいている。

 それにもかかわらずシルヴィアは俺についてきてしまった。

 防御手段も逃走手段もないにもかかわらずにだ。


「まじで呪うぞ……数日前の俺がよぉ」

「そうですね。私を拒否していた数日前のアイク様を呪ってあげてください」


 そう言ってシルヴィアは俺に腕を絡めてきた。

 いつ襲われるかわからない状況で二人で密着するのは危ないんだって……。

 女心かもしれないけど、今は命大事に。どうにか傷つけない方法で離れさせないと。


「シルヴィア、君を守るためにも腕を離してくれないか? 引っ付くのは宿屋で、な?」

「そうですよね……魔物が出るんですよね……浮かれていました」


 まあシルヴィアはピクニック気分でついてきたんだろうな。


 ロレーニアからしばらく歩きぽつぽつと木が生えているだけの草原に着いた。

 ここなら出現する魔物も弱いしちょうどいいか。


 木陰に立ち尽くし手ごろな魔物を探しているとこちらに向かって駆けてくるメタルラビットが見えた。

 俺たちの姿に気づいたメタルラビットはその頭の角を突きつけながら足を速める。

 俺もすかさずシルヴィアを背中に隠し左腕を構えた。

 機械化した角に注意して立ち回ればどうってことない敵だ。


「よしっ、『オーバーホール』!」


 メタルラビットがとびかかってきた瞬間、スキルを発動。

 俺の鼻先までせまっていた機械角が粉々に砕け散る。

 分解された部品が無残にも飛び散る。

 切り返し、シルヴィアに向かってとんだ部品を『剣変形』で切り裂いた。


「危ねっ!? シルヴィア大丈夫?」

「あ、はい♡」


 これで『オーバーホール』の特性が大体わかったな。

『オーバーホール』は機械、生物の機械部分、生物部分関わらず作用する。発動した瞬間、機械は部品レベルまで分解され、再び発動すると元通りになる。

 冒険者の仕事では機械化した魔物相手には無類の強さを誇るだろうな。


「これ、強いんじゃね?」


 どこまでの規模の魔物に効果があるのかはわからないけどロレーニア周辺の魔物どころかSランクの魔物まで楽勝じゃないか!?


 もっと『オーバーホール』の鍛錬をしたいけど今回は早く帰ろう。

 シルヴィアに魔物の対処方法とか教えて安心して離れられる状況を作ってから来よう。

 バラバラになったメタルラビットを呆然と見下ろしているシルヴィアをこちらに向かせる。


「俺についてきたいんだったら死体には慣れてくれ。頼む」

「──えっ? あ、いえ大丈夫です! 村でも魔物はよく討伐されていたので!」

「ん? そうか。ならいいんだけど……」

「それより帰るんですよね? やっとアイクさんとゆっくりできるんですよね!?」

「そうだけ──」


 腹の底が震えるような雄叫びとともに何かが焼ける匂いがした。

 慌てて振り返ると立ち上る黒煙とその周りを悠々と飛翔する物体が見えた。


「あれ、馬車が襲われてないか?」

「え、何しようとしてるんですかアイクさん!?」

「行ってくる! 今回はちゃんと待っててくれよ!」


『外部運動補助機構』を発動し、馬車の元へ駆けていった。

 徐々に馬車の惨状がはっきりと見えてくる。


「レッドワイバーンじゃねえかよ……」


 Aランクの魔物、レッドワイバーンが我が物顔で馬車にブレスを吐きかけている。

 幸い、乗客も御者も業火に巻き込まれてはいないようだ。


 数十秒もかからず馬車にたどり着く。

 数人の護衛の冒険者がなんとかワイバーンを退けようと奮戦していた。

 しかし彼らの装備は近接武器ばかりであまり状況が良いとは言えなかった。


「加勢する!」

「お、おい! むやみに近づくなって!」


 最前線にいた壮年の冒険者の静止も無視して、ワイバーンの真下に潜り込む。

 何度も『オーバーホール』を発動しようとしたが距離が離れすぎているのか不発に終わる。


 俺の姿に気づいたワイバーンが顎を開き熱球を生成し始める。

 馬車を破壊したのもこの熱球だろうな。


「だが、遅いな」

「ギャース!!」


『外部運動補助機構』で垂直に跳びあがる。

 威嚇しながら避けるワイバーンの腹めがけて発動した。


「『オーバーホール』!」


 ドガシャアン!!


 けたたましい金属音と共にワイバーンの身体が爆ぜた。

 俺の身体二つ分ぐらいの大きさのワイバーンだったけどしっかり『オーバーホール』は発動するようだ。


 実を言うと、もし『オーバーホール』に大きさ制限でもあったら、次の策用意してなかったんだよね。

 まあそんなことないと信じてはいたけれども。


 飛び散った部品からまたワイバーンが復活しないか見て回っていると、何やら言い争うような声が耳に入った。


「何をしている! 私に歩けと言っているのか! 国王指名マッド研究所の研究員に対して失礼だぞ貴様!!」


 俺は思わず立ち尽くした。

 いや、ありえない。あいつらの方から接触してくるなんて……。


「──まずいな」


 ──────────────────────────────────────

【あとがき】

 少しでも「面白そう!」「続きが気になる!」「期待できる!」と思っていただけましたら

 広告下からフォローと星を入れていただけますとうれしいです。

 読者の皆様からの応援が執筆の何よりのモチベーションになります。

 なにとぞ、よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る