第17話 試せ! オーバーホール!
「『オーバーホール』ってなんだ?」
スキル一覧の底に隠れるようにあったこの『オーバーホール』というスキル。
こんなスキル、最先端の研究をしていたマッドの研究室にいたときでも、文献にすら見たことがなかった。
このスキルがどのような効果を持っているのか、デメリットはあるのか詳しく検証していく必要がある。
「間違いなくメンテナンス関係のスキルなんだろうけど……」
脳裏にちらつくのは一瞬だけ粉々に砕け散った俺の左腕。
発動に失敗すると砕け散るとかシャレにならない。
とりあえず行動しないと何も解決しない。
ギルドで手ごろな魔道機械でも借りて試してみるか……。
「フレン、壊しても大丈夫な魔道機械ってないか? メンテナンスの練習をしたくてさ」
「アイクさんぐらいの腕前でしたらこちらとしては依頼を受けてくださった方がいいんですけどねぇ」
「いや、新しい方法を試すから人の物で実験するわけにはいかないんだよ」
まだフレンにはこのスキルのことは黙っておいた方がいいだろう。
どこからマッドたちに情報が洩れるかわからない。
シルヴィアもいるし、彼らがちょっかいをかけてくるとも限らないのだ。
するとフレンは両手を後ろに組んで、
「じゃあ……私、使いますか……?」
「うえっ!? ちょっとまっ──」
「フレンさ~ん?」
当然のようについてきていたシルヴィアを見た途端、フレンは興味をなくしたかのように無表情になる。
「なぁんて嘘ですよ。ギルド所有の簡易機械があるのでさっさと持ってってくださぁい」
そう言うと彼女はそっぽを向いてすたすたと別の業務をしに行ってしまった。
何か怒らせるようなことしたかな?
一応あとで謝っておくか……。
俺たちはギルドのメンテナンススペースに移動すると仕切りを立てて外から覗けないようにした。
今回俺らの実験台になるのはキューブ型の魔道機械だ。
簡易型はスキルといっても人間に危害を加えるようなものはないから安心して『オーバーホール』を試せるわけだ。
「『オーバーホール』──」
キューブが赤く輝き、目を開けていられない。
眼球を焼くような光が弱まり、恐る恐る目を開ける。
ガランッガラガラガッシャーン!!
けたたましい音と共にキューブがバラバラになって床に散らばった。
あまりの出来事にしばらくは言葉が出なかった。
「──えっ? バラバラになって……うえっ?」
ど、どうしよう……俺の左腕の時にはこんなことにならなかったのに。
魔道機械に発動したのが悪かったのか?
でも基本的に歯車病と魔道機械の構造は似通ってる。
だったらメンテナンスされるはずなんだけど……。
「アイクさん!? 大きい音しましたけど大丈夫ですか!?」
「大丈夫だから!! 心配しなくていいから!」
金属の大合唱を聞きかねてフレンが慌てて来た。
壊してもいいって言われたけどさすがにこのまま返却するのは申し訳ない。
どうにかして直さないと魔道整備士の名が廃る。
「……もう一度発動してみるか!?」
床に散らばった部品をかきあつめてもう一度『オーバーホール』を発動した。
瞬間、部品が赤く光りだす。
キューブだった物のかけら同士が重なりさらにまばゆく輝いていく。
思わず閉じた目を開けるとかけらが山になっていた場所には一つのキューブが何事もなかったかのように置かれていた。
キューブをこの目でとらえた途端、頭の中に音声が流れる。
『オーバーホールが完了しました。データ取得──完了。拡張ポイント3を獲得しました』
「なるほど、そういうことか……! ……これ戦闘でも使えんじゃねぇ!?」
『オーバーホール』とは一度発動すると対象を分解し、再び発動すると元の形に修復するスキル。
一度修復すればデータも拡張ポイントも入る仕様らしい。
「すごいですよ! 一瞬で壊したり、直したり!! もしかしてアイク様最強になっちゃいます?」
そう言ってシルヴィアは俺の手を握ってそのままぶんぶんと振ってきた。
張本人の俺よりも興奮した表情で顔を近づけてくる。
ここまで褒められることなんていつぶりだろうか。
マッドの研究所にいたときにはどんなに仕事をこなしても軽蔑されてたからなぁ。
いまだに自分が強くなっていっていることが信じられなくなる。
そのままキスからの押し倒しに入られそうだったので一旦シルヴィア引き離す。
「そういうことは、俺の部屋で……ね? わかった?」
「は、ひゃい……」
耳を押さえてシルヴィアがのろのろと元の位置に戻る。
シルヴィアの制御にも慣れて来たな。
彼女の誘惑から解放されて、ようやくさっきまで考えていたことを思い出す。
「魔物にも通用するか試してみるか……!」
俺はまだ『オーバーホール』のすべてを理解したわけではない。
使えるものは最大限利用していかないともったいないしね。
ただ問題は、生物は魔道機械のように部品でできていないことだ。
それでもバラバラになるのかは試す価値がある。
ギルドの入口へと向かう俺をみてシルヴィアがキョトンとした顔を浮かべる。
「え? 部屋に帰るんじゃないんですか……? さっきのはそういうお誘いじゃなかった……?」
「……そう思ってたらごめん。 ちょっと外行ってくるけど……来る?」
「私はアイク様から離れませんから!!」
「お、おう……」
──────────────────────────────────────
【あとがき】
少しでも「面白そう!」「続きが気になる!」「期待できる!」と思っていただけましたら
広告下からフォローと星を入れていただけますとうれしいです。
読者の皆様からの応援が執筆の何よりのモチベーションになります。
なにとぞ、よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます