第16話 新たな強化
「私って普通じゃないんですか……?」
「その言い方だと語弊があるけど……まあ普通の歯車病ではないよ」
おそらくシルヴィアもマッドに歯車病にされたんだろう。
あいつに発症させられるとスキルが付くということは間違いない。
その後、俺は冒険者稼業の傍ら、シルヴィアに歯車病との付き合い方、今彼女の身体に起こった状況について事細かに教えていった。
彼女が一人でも歯車病と向き合っていけるように、暴走しても落ち着いて対処できるように基本的なことから丁寧に伝えていった。
ちなみにシルヴィアの腕のスキルは「サーチ・スコープ」を使っても名称さえわかっていない。
だからこそ彼女には細心の注意を払ってメンテナンスをしている。
初めは自分の腕を外すことに抵抗感があったみたいだが今となってはメンテナンスに積極的に協力してくれている。
今日もベッドに腰かけて彼女の腕をメンテナンスしている。
「えへへー。私、アイクさんが私のことだけを見てくれるこの時間が大好きになりました」
「それはまあ……よかったよ」
「なんですか~照れてんですか~?」
実際、好意を向けてくれているのはうれしいが、落ち着いて考えてみた結果、まだマッドと俺の事情に巻き込んでしまった申し訳なさが勝っていた。
それに急に女の子に好きって言われたら照れるだろ。男なら。
「未来のお嫁さんに対して失礼だと思いません? もっと私を求めてくれてもいいんですよ?」
「……ほら、メンテナンス終わったから、じっとしといてくれ」
「また照れ隠し……むぅ」
むくれながらもシルヴィアはきちんと袖をまくって肩をあらわにした。
素直に指示に従ってくれるあたり、根の素直さが見え隠れしている。
機械腕を彼女の肩に接合しようと、鼻が触れ合う距離まで身を寄せた。
彼女の細かな息遣いまで鮮明に聞き取れる。
──ここまで手玉に取られて悔しかったのかもしれない。
俺は彼女の耳元に口を寄せるとそっとささやいた。
「好きだ」
「ひゃっ!? な、なに急に言い出すんですか!?」
シルヴィアが顔をそむけたが耳まで真っ赤に染まっているせいで照れているのが隠せてない。
一矢報いることができたわけだ。
「……意外と意地悪なんですね……」
「仕返ししたかっただけだから。……シルヴィア以外にはしないけどね?」
「だからそういうとこですっ!!」
実際、俺もシルヴィアのことに好意を抱いていることに違いはない、いやこんな客観的な言い方はだめだな。
素直に言うと、メンテナンスの時間がかけがえのないものだと思ってる。
シルヴィアの腕を元に戻すと頭の中に音声が響いてきた。
『条件:名称不明機械のスキャンを達成。拡張ポイントを規定数まで獲得しました。スキル『──』が『オーバーホール』に変化しました。拡張ポイント150,000ポイントを消費して『オーバーホール』習得しました。これによりスキル『再生成』、『サーチ・スコープ』は『オーバーホール』に統合されます』
「きた……! けど、オーバーホール?」
「ぼっーとしてましたけど、大丈夫ですか?」
急に声を大きくした俺に驚いてシルヴィアが半身分身体を引いた。
彼女に状況を説明するついでに新しく追加されたスキルについてまとめてみる。
まず、『サーチ・スコープ』と『再生成』が統合されたことから見て、それらの上位互換のスキルには間違いない。
ただ“統合”されているのだ。何と統合されたのか、どういうスキルになったのかはさっぱりだ。
これでサーチ・スコープのほうが便利だったなんてことになったら本当にがっかりするけど……まあ大丈夫だろう。
条件がポイントじゃなかったのか……でもなんで?
「一回使ってみるしかないか……」
「私に! どうぞ!」
「危ないので却下」
シルヴィアが両手を広げて待ち構える。
だがスキルの詳細がわからない以上、彼女の身体を実験台にするには危険すぎる。
俺は恐る恐る、それを自分に使ってみることにした。
「『オーバーホール』──!」
すると、俺の左腕が赤熱し始めた。
赤を通り越して白く輝くと腕全体が跡形もなく消え、一瞬で元に戻った。
「俺の腕が壊れて、元に戻って……えっ?」
見た目の変化も違和感もない。
『剣変形』のように形を変えられるようになったわけでもない。
だが見た目。腕全体に変化がないということは、それ以外の変化ということか。
一応、メンテナンスをしておこう。
俺は左腕を外すといつものようにメンテナンスをしようとした。
するとそこには意外な変化が起こっていた。
「えっ? もうメンテナンスされてんだけど……もしかしてそういうスキルなのか!?」
「すごいじゃないですか!! 一瞬でメンテナンスできるようになったんですよね? アイクさんがまた一つ強くなったのはうれしいんですけど……一つお願い聞いてもらっていいですか?」
「ん? な、なにかな……?」
シルヴィアがベッドに手を突き、胸を誇張するような姿勢で近寄ってきた。
にじり寄ってきた彼女の顔に黒い感情がよぎった気がした。
「私にだけオーバーホールを使わないでもらえますか? アイクさんと二人きりになれるのは私だけにしましょう? 私だけがあなたの時間を奪えるの」
「言い方は怖いけど……まあ。いいよ」
「やった! 大好きですよアイクさんー!」
なんだかんだ俺もシルヴィアには甘いようだ。
その後何かにつかれたようにキスをせがんでくる彼女をなだめるだけで、数時間を費やしたのはここだけの話。
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【あとがき】
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