第15話 八つ当たりからの再起【マッド視点】

「あの娘は見つかったか!?」

「まだです……実験の後から足取りが一向につかめず……」

「何やってる!! さっさと探せぇ!!」


 あれから俺はリハビリの傍らで実験の後失踪した娘の行方を追っていた。

 さすがに王城にいる医師と魔道機械の治療といえど、なくなったものをよみがえらせることはできない。

 だからこそあの娘のデータが必要なのだ。


「なんとしてでも探し出せ! あの娘のデータを他に取られるな! 俺たちの首が飛ぶぞ! 物理的にな!!」


 なくなった腕の切断面はまだ燃えるような痛みが続いている。


 一応国王指名の研究者として最先端の治療で痛みはましになっている……らしい。

 まあ、医師たちに心無い悪口を言われ続けながら生活する状況から早く脱出したかった。


 中には侮蔑の目線だけ向けてきた奴もいたが直接面と向かって言われるより相手の本音がわからない分、つらかった。

 まあ、そんなやつらの陰口も全部俺の耳に入ってるけどな。


「ったくなんでこんな面汚しのために働かなきゃならんのだ」

「まったくだ。腕がなくなったのも自業自得だというのに」

「魔道機械だって治療薬だって安くないのよ。大事な予算をこんなクズに使っちゃうなんてねえ」


 あんたらの仕事だろうが。文句言わずにやれよ。……とは内心思っていたが、口には出さなかった。

 今こいつらを敵に回してもなんの利益もない。

 耐えるんだ……回復したら速攻出てってやる。


 文句は垂れ流しつつもやはり王族直属の医師たちは優秀なようでほんの一週間で片腕がなくても生活できるまでに回復した。


 病室でも城の中でも悪態をつかれ続けた屈辱に満ちた一週間が終わったのだ。


「やっと研究所に戻れる……! まだまだこれからだ。ナノマシンも道具もまだ残ってる。こっからが俺のドラマが始まるんだ……!」


 腕一本なくなったことぐらいであきらめるなとなんとか自分を奮い立たせる。

 だが腕が一本になったことで細かい作業ができないのも事実だった。


「メリッサ、まだナノマシンの注射器余ってるよな?」

「えっ? あるけど……」



 ◇



 俺は王のもとに行き、跪く。

 形式的なものだが国王にお礼は言っておかないといけない。

 どうせ悪態をつかれるだけだから会いたくなかったけど。


「お世話になりました。国王様」

「お前の話など聞きとうないわ。……だが一つ伝えておくことがある」


 王は俺を心底見下して、唾を吐き捨てながら言った。

 屈辱感でいっぱいだが、その内容は思ってもみないことだった。


「お前の命を担保にしてもう一度チャンスをくれてやる」


 そんな国王のやさしさにも文句を言ってきたのはオレンヌだ。


「国王様!! こんなカスに恩赦など必要ありません!! 今すぐ処刑されてもおかしくないことをしでかしたのですよ!?」

「くそが……」

「あん? お前に発言権はない!! 黙ってろ!!」

「っく……」


 非常に腹立たしいが今反抗しても事態が悪化するだけだ。

 俺が処刑されるレベルのことをしでかしたのも、発言を許可されてないことも事実だ。

 いまは我慢だ。我慢……。


「落ち着けオレンヌ大臣。我の決定に反論するのか?」

「恐れ多いですが今回だけは反論させていただきます! 実害も出した大罪人ですよ!? 国王様の慈悲を受けるに値しない人間なのですよこいつは!!」


 唾をまき散らしながらまくしたてるオレンヌを国王はギロリとにらみつける。


「我の面子と国の威信を失ってもこいつを処刑する価値はあるか?」

「いや……それは……」


 オレンヌが言い淀む。

 そこは価値ある人間だと言えよ。


「確かにマッド、お前には失望した。しかし今から国王指名の研究所を選びなおすとなれば、それこそ我の判断力がないことにされてしまうからな。

 国の威信にかけてもお前たちにはふさわしい行動と成果を出してもらわねばならぬ。

 お前たちは優秀なはずだろう? この前のは何かの手違いだったと信じてやってもいい」


「ありがとうございます!! 国王様の海よりも広い御心に感謝いたします。このマッド命に代えてでも国王指名の研究所所長として汚名を返上いたします!!」

「次ここに来るのは首が飛ぶ前か祝砲が飛ぶ前かのどちらかだからな」


 俺の決意とあきらめない心が功を奏したのか、国王は寛大な処置を与えてくださった。

 治療中も研究員を使ってデータを集めていた。

 王城から毎日のように発送される俺の手紙を見てこのような処置にしていただいたに違いない。

 もちろん国王あてにもどれだけ俺がこの国に奉仕する心があるか、有能さ、これからの計画、すべて洗いざらい書いた手紙を送っていた。

 とにかく俺の研究が止められなくてよかった。


 去り際にオレンヌが俺の胸倉をつかんで言い放った。


「俺はお前を認めない……! まさか指名されたことで怠けていたわけではないだろうな? メンテナンスなどきちんとしていたんだろうな?」

「あたりまえだろ。国王に指名されて怠ける奴がいるか!」

「ふん、どうだかな。最近一人研究員が減ったらしいじゃないか」


 好き勝手言いやがって。

 心の中は煮えくり返っていた。

 またメンテナンスの話か……。

 全部アイクのせいなんだよ……!

 動きは鈍いくせに勘だけは鋭い奴だ。

 いずれこいつも俺の研究成果で黙らせてやる。


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【あとがき】

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