第12話 公認ストーカーの卵!?

「──起きましたか? 体調のほうは大丈夫ですか? このまま誰も目が覚めなかったら……いっそ私も死んだほうがいいんじゃ……」

「起きた、起きたからいったん落ち着こうか!?」


 頭上から降ってきた何やら不穏な言葉に跳び起きる。

 が、勢いよく持ち上げた顔面が柔らかくなんとも心地よいナニかに阻まれまた元の位置に戻されてしまった。


「起きてすぐだなんて……やる気ありすぎですよ私の英雄様」

「理不尽な誤解と不可解な呼び名があったんだが!? てか誰の膝枕?」


 寝ている状態からでは豊かに実った2つの丘陵に阻まれてその顔を見上げることはできない。

 本当に顔が隠れることってあるんだな……。

 違う、そういう状況じゃないだろ俺。


「不可解だなんて……私を救ってくれたのはあなた様でしょう?」

「そろそろ頭をがっちりつかむのやめてくれません?」


 機械腕の突起がいい感じにクリーンヒットして頭皮がえぐられてさっきから頭痛がぶり返しているんだよね。

 膝に押しつけるようにしていた彼女が手を離すのを確認してから、頭をスライドさせるようにして膝枕の呪縛から逃れる。


「もう……もっと寝ててもよかったのに……」

「さっき、物騒なこと言っていたのはどこのどいつだよ……」

「救っていただきありがとうございました。一生ついていきますっ!」


 話聞いてくれないんだけど……

“助けていただき──“じゃなくて”救っていただき──“なのがまたなんともこの少女の性格を表してる気がする。

 それにこの少女を救ったのは俺だけじゃない。ここに伸びてる医者も看護師もフレンさんも手を尽くした結果、この少女は助かったのだ。俺だけが感謝されるものではない。


「俺はアイク・レヴィナス。んで……シルヴィア・オルレアンさん……だっけ。なんであんなところで──」

「私の名前を知っているだなんて! ハッ! 私の運命の相手……?」

「断じて違う。……で、そろそろこっちの質問に答えてもらおうか?」


 こちらの空気感をやっと読み取ったのか、まっすぐと俺の顔を見て少女、シルヴィアは語り始めた。


「逃げてきたんです。王都から」

「王都から? 君、王都の住民だったのか?」

「いえ、目覚めたら王都だったんです。研究所の実験に協力すれば村を援助してくれるって言われたのでついていったんですけど、途中で眠ってしまって」


 実験? 人体を用いた実験は王令で規制されているはずだ。それなのに実験という名目で連れ出したのか……?


「それで村に戻るために?」

「いえ、目が覚めると私の側で血だらけの人が転げまわってて……怖くなって、逃げてきたんです。右腕の歯車病……これ私が悪いんですよね? そうですよね? だったらもういっそ死ぬしか……」

「重い重い重い! 死ななくて大丈夫だから! いったん落ち着こうか!?」

「すみません……取り乱してしまいました」


 あークソ、急にシュンとなるなよ。こっちが悪いみたいになってんじゃん……。


 うーん、話を聞いてくれない上に気を付けないとほんとに死にそうだから怖い。

 しかもその端正な顔立ちのせいでいちいち画になるのが余計にタチが悪い。


「うーん、なにがどうなったぁ?……あれ、あなた起きたんですねぇ。何事もなくてよかったですよぉ……」


 大あくびしてるからフレンも何事もなさそうだな。いやあ、よかったよかっ──


「アイクさん、誰ですか?悪い人?」


 いや全然よくないな!?

 シルヴィアがこの世のものとは思えない形相でフレンをにらみつけていたからだ。


「フレン・ルイーズですぅ。そんなに強い口調で話せるなら大丈夫そうですね。安心しましたぁ」

「アイクさんに付く悪い虫は私が取り除きます。そのくらいにしか役に立たないと思うから」

「アイクさんの!受付嬢ですぅ。アイクさんのサポートができるのはあたしだけですからぁ。捨て猫さんはおとなしくのに帰って下さぁい」


 シルヴィアの物理的に上からの目線とフレンの底をなめるような視線が火花を散らしてるのが見て取れた。

 フレン、起き抜けによく口論できるな……。

 どうしてこうなった……俺の意志を無視してバトルが繰り広げられるけど今はそれどころじゃないだろ……


「ま、まあその話は置いといて……フレン、ちょっといいか」


 まずはシルヴィアの今後の扱いだ。彼女の故郷に返すにしても、静養させるためにこの街に残ってもらうにしても相応の手続きは必要だから早めにギルド側と話をしておきたい。


 そういう意図でフレンさんを連れて医務室から出ていこうとしたのだが……


「え?……置いてかないで……もう、一人は嫌なんです。他の人に迷惑をかけてしまうから……」

「ちょっとこの子……私がお持ち帰りしていいですかあ?」

「いや、医務室で安静にしないとだろうが」

「こんな子アイクさんの近くに置いちゃだめですよ……めんどくさいけど可愛いもん……ちっ」


 いやもちろん手は出さないんだが……。というか今持ち帰りなんて言い出したらいつ性犯罪者にされてもおかしくない。


「私は……アイク様と一緒がいいです……」

「むぅ、そう可愛く言われると妨害する気が失せるじゃないですかぁ……」

「なにをぶつぶつ言ってんだ?」

「なんでもないですぅ。ほら行きますよシルヴィアさんも」


 なんか釈然としない……大丈夫か……?

 

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【あとがき】

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