第13話 甘い香りのする距離
「……落ち着いたか?」
「本当にごめんなさい……とりみだしてしまいました……」
マグカップを抱えながら縮こまってしまう。
目覚めたときに人が大勢倒れてたら取り乱すのも仕方ない。
ギルドマスターとの話し合いで決まったのはシルヴィアの歯車病について対処方針が決まるまで俺が保護者となること。
まあ、魔工整備士である俺が側にいることは歯車病対策の面でも合理的なことはわかるけどさ……
「なんで一緒の部屋なんだよ……」
「いやでしたか……? やっぱりお邪魔ですよね……。大丈夫です、一人で何とか頑張りますから」
「それが心配なんだよ……わかった。この部屋にいていいよ。その代わり事故が起きても起こらないでくれ」
「わかりました! 夜中に急に起きだしてゴソゴソしてても寝たふりしておきますから!」
「俺の話をしてるんじゃないし、あんたがいる前でそんなことしねえって!」
宿屋に空き部屋がなかったのだ。それでも俺が側で見守ってなきゃならないからこのような状況になってしまった。
俺がシルヴィアの着替え中にばったり会うとかそういう話のつもりだったのに当の本人は自分自身のことを考えてないし。
いつか人のために死のうとするかもしれないと思わせるからほっとけなくなってしまう。今さっき会っただけなのにここまでなつかれるとはなあ。
「まあ、ゆっくりしててくれ、俺はシャワー浴びてくる」
「いってらっしゃいませ。おとなしく待っておきますね」
シルヴィアを先に風呂に入らせてもよかったけど、気分を落ち着かせとかないと、一人で入りたくないとか言いそうなんだよな。もし万が一にもそんなこと言われたら理性がショートして使い物にならなくなる。
「……ふう。一応何とかなってるのか……」
オイルと泥にまみれた身体を洗い流しながらもう一度ギルドと相談して決めたことを思い返してみる。
基本的には見つけてきた俺が世話をすることになってるけど見た感じ歯車病にさえ注意していれば大丈夫な気がする。
だけどその歯車病がマッドたちの実験で発症した可能性が高いのだ。
シルヴィアの村に来た白衣の集団、王都での実験という手がかりのみだが、数ある王国の研究所の中で歯車病患者を研究対象にしているのはマッドたちくらいだからまず間違いない。
シルヴィアの右腕にスキルが人工的に付与されている以上、彼女自身でそのスキルを制御しなければならない。
その方法を教えるのも俺の役目として頼まれてしまった。
「ここまで頼られることになるなんてな……」
研究所にいたときはマッドたちがやりたくない仕事を押し付けられていただけで頼られるなんてことがなかった。
研究所を出ただけでここまで“人間”として見てくれる。
普通の人たちには当たり前のことかもしれないけど、自分を必要としてくれるというのはうれしいものだ。
「その期待には応えなきゃな……」
「では、その声にこたえまして……」
「うおっ!? 何やってんの!?」
二つの柔らかいものが俺の背中を包み込むように押し付けられた。
肌に直に伝わる体温と漂う甘い香りがなんとも生々しい。
彼女は今、一糸まとわぬ姿で俺の背中に寄り添っているのだ。
この後のことを想像してしまいそうになり、その場で硬直するしかなかった。
「待ってるって言ってたよね!?」
「すみません……さっき一つお伝えし忘れていたことがありまして……」
「だからって風呂の中に入ってくるのはちょっと……!」
「裸の付き合いですよ……?」
それは同性の間だけだって……!
やましい気持ちを何とか下半身に行かせないように耐えること数十秒。
限界だった。
「いいですよ……すべて私に任せてください。今私にできることはこれくらいしかないから……」
「いや、大丈夫だから!? 無理してやんなくても……!」
「それ以上は言わないでください。好きなんですから……」
動揺しっぱなしの俺の正面に回り込んで……。
なんと俺の口をその可憐な唇でふさいできた。
「アイク様、それ以上はナシですよ……?」
シルヴィアの宝石のような濡れた瞳に、俺の理性はそのまま飲み込まれてしまった。
それからのことは、最高の体験過ぎて、脳裏にくっきりと焼き付いている。
シルヴィアの絹のような白く柔らかな肌、女の子特有の包み込むような甘いにおい。
間近で感じる女の子の感触に、俺は人生最初の性の喜びを満喫していた。
「シルヴィア、良いのか? 出会ったばかりの俺とだなんて……」
俺の上で揺れる彼女の肉体を貪るように堪能しながら俺はそう言った。
自分に自信がなくて言ったんじゃない。彼女が流されて貞操をささげてしまったのか心配だったのだ。
「アイク様だからですよ、私っ、んっ……あなたのことが、好きなんです……あっ……♡」
その後は何の憂いもなくなったかのように、お互いに寝食を忘れて互いの身体を貪りあった。
まだ出会ったばかりだというのに、恥も何もかもさらけ出して一つに溶け合っていく。
まるで運命の糸に導かれていくかのように心までもその距離を縮めていった。
「アイク様……大好き……大好きっ……!」
明るくなった外の光に照らされて力強く俺の身体を抱きしめるシルヴィアの身体が輝いて見えた。
これからの生活、もしかしたら人生で一番幸せなものになるかもな……今がよければそれでいいか。
そう思って、俺は俺の胸に顔をうずめる彼女の額にそっとキスをした。
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