第11話 機械姫
「なんだここ……油臭いな……」
ロレーニア南東部“アスト”地区──
入り組み迷路のようになった路地裏を体をくねらせながら進んでいた。
「これもか……本当にいろいろなものが落ちてんだな……」
今日、俺がここにいるのはギルドの依頼でこの“アスト”に捨てられている魔道機械の残骸を回収するためだ。
使い古され本来の機能を発揮できなくなった機械が無残に捨てられ山のようになっている。
捨てた冒険者側はただの道具の寿命が来ただけに思っているだろうが、本来“遺跡”でしか見つからない貴重なものである魔道機械を捨てていることなど言語道断である。
その回収をギルドに依頼されたのだ。
それにこの悪臭とむせかえるような熱気。
さっさと回収して帰ろう。
なるべく破損が少ないのを選んで腰に下げた袋に入れていく。
籠手型や指輪型、中には剣型の魔道機械までもが油と泥にまみれて打ち捨てられていた。
もったいない。ちゃんと技術を持った整備士がメンテナンスすれば動くものばかり。
「これも籠手型……ん?」
ガラクタの山の中から何気なく引っ張った籠手型の魔道機械の奥に何やら抵抗する感触がある……?
ガラクタたちが噛み合ってるだけだろうか。
“アスト”に落ちているにしてはきれいなほうだし故障も軽微なものがいくらかあるだけだからなんとか回収しておきたい。
「なんだこれ……! 人!? 死んでないよな!?」
ガラクタの中から姿を見せたのは肩から先が機械となった少女だった。
無機物の山の中でもかろうじて呼吸はできていたらしく、衰弱はしていたがまだ脈はある。
「とにかく……ギルドに連れて行かないと……!」
あそこの医務室だったら死なないだけの応急処置は受けれるはずだ。
背中から伝わる息遣いは激しく、とても体調が良いとは思えない。
ほっとくだけでこの命は失われてしまうだろう。
「歯車病なら俺がメンテしてやるからギルドまで耐えてくれよ……!」
少女の身体は軽く、簡単に背負えたが他の魔道機械を袋に入れた今の状態ではとても走れそうにない。
「『自動更新』──!」
何か、今の状況に合うスキルがあれば……!
唇で何とかスキル一覧をスクロールしていく。
「くっそ……『移動速度倍化』とか『軽量化』とかないのかよ……!」
獲得できる機能が多すぎて探しきれない……!
たびたび道端の小石に躓きながらも着実にギルドへ足は進んでいる。しかし人ひとり担いでいるため俺の体力のほうが持ちそうにない。
「まずは……これから……!」
『スキル『検索』を獲得しました』
スキル一覧に追加された『検索』タブを開き、“身体強化”と入力、身体強化に関連するスキルのみ表示されるようになった。
「あった! 『外部運動補助機構』!!」
『装備スキル『外部運動補助機構』を獲得しました』
獲得した瞬間全身の骨に沿うように半透明のパイプが張り巡らされた。
一歩踏み出すごとに見えない力で全身が支えられる感覚がする。
やっとこの子を送り届けられそうだ。
振り落とさないよう少女の身体を前に抱え、俺は路地裏を駆け抜けていった。
☆
「着いたっ……! っはあ、フレン、医務室空いてる!?」
「おかえりなさーいって、背負っているのはなんですか!? 何かしたたり落ちてるんですけど!?」
「瀕死の人間だ!! 早く医務室を案内してくれ!!」
「わ、わかりました!!」
事情を理解したフレンさんの案内に従って医務室に駆けこむ。
腕の中の少女からはまだ鼓動が伝わってくる。一応間に合ったみたいだ。
「事情は後で聞きます! まずは治療が先です!」
いつになく真剣なまなざしをしたフレンに圧倒されて、医務室のスタッフがあわただしく動き始めた。
看護婦たちは少女の身体を軽く拭くと、その体に薬物を投与した。
何やら聞いた事のないような薬物だったが即効性があるもののようで、少女の呼吸が徐々に穏やかなものに変わっていった。
医師の話によると少女の身体の方はもう問題はないらしい。
ただ──
「歯車病だけは医務室では何ともできないんですよねぇ」
「俺がやればいい話だ。どいてくれ」
少女の右肩から先にかけてがすべて機械化してしまっている。
しかし機械特有のごつごつとした雰囲気はなく、すらりとして洗練された曲線を描いていてなんとも美しかった。
「『サーチ・スコープ』──」
『情報取得中……』
───────────────
個体名:シルヴィア・オルレアン
(中略)
歯車病特殊個体(右腕)
スキル:『── ──』
────────────────
ビキビキビキビキッ!!
痛って!? 『痛覚遮断』が効いてない? それだけの情報量があるとは思えないけど……!
奥歯をかみしめて痛みに耐えながらも少女の右腕をくまなくメンテナンスしていく。
長い間メンテナンスをしていなかったらしくもはや壊れて動かなくなっていてもおかしくないくらいの損傷があちらこちらにある。
本当に俺が見つけてよかった。医務室に運ぶことはできても歯車病のメンテナンスができる人間はこのギルドにはそういないからな。
「よし、これを直してメンテナンスは終わりだな……うん?」
最後のギアを入れなおした途端、少女の腕が光り輝いた。
こんな機能は見たことがない、け、ど──
光に当たった瞬間、体の力が抜けていく。
彼女を、直せたのだろうか……。こんなところで、寝るわけには……。
俺の意識はそこで途切れた。
その後、目を覚ました俺を待ち受けていたものに人生ごと変えられてしまうとは夢にも思ってなかったのである。
──────────────────────────────────────
【あとがき】
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