第9話 冒険者として

「まあ、まずは戦えるかだよな……」


 新しく追加された『剣変形』と『電磁弾』を練習するべく俺はロレーニア近くの森に来ていた。

 まだポイントは1万以上あるし、本当はもっとスキルを追加できるが今追加した二つを試してからのほうがポイントを有効活用できるからな。

『サーチ・スコープ』でスキャンすると獲得できる拡張ポイントを消費してスキルを得ることには変わらない。


「さて、スライムはどこだ……?」


 俺が受けた依頼は『スライムジェルの納品』。町の錬金術師が実験に使うらしい。

 どうも研究者、学者というものは実験をしないと生きていけない人間のようだ。

 マッドたちも何食わぬ顔で実験を行っているんだろう。ちゃんとメンテナンスしているといいけど。

 基本的には魔道機械は繊細なものだ。こまめにメンテナンスしないとすぐ故障だったり暴動してしまったりする。

 まあ失敗したとしても自業自得だな。


「あそこだな……!」


 しばらく静かな森を歩いていると数匹のスライムの群れに遭遇した。

 気づかれないように木陰に隠れながら近づき、発動する。


「『剣変形』……」


 わずかな駆動音と共に手首が縮み腕全体の側面から刃がせりあがる。


「よし、これで戦えるか……?」


 胸の高さに剣を構え、木陰から飛び出す。

 そしてスライムに向かって腕を振った。

 ピョンピョン跳ね回るスライムに何発か攻撃を当て、やっとのことで倒すことができた。


「少しは、感覚がつかめてきたか……?」


 モンスターとの間合いだったり、剣の振り方だったりは練習していけば何とかなるだろう。

 それ以外はスキルで補っていけばいい。


 まずは戦いになれるべく、群がってきたスライムたちに剣をふるっていった。

 一体倒すごとにかかる時間も、腕を振る回数も減っていく。


「うお、硬っ……!」


 キイィィン……!


 灰色のスライムには何度も剣をたたきつけてもはじかれるばかりでダメージを与えられない。


「くそ、なんだこいつ!?」


 藪から飛び出してきた水色のスライムをたたき切る。

 はじけたスライムから飛び散った液体が灰色のスライムにかかる。

 スライム液で流された灰色のスライムがテカテカと輝き始める。


「こいつ、メタルスライムか……! なら……『電磁弾』!」


 金属光沢を放つスライムに向かって腕を突き出した。

 駆動音と共に腕から筒が伸びスコープがせり出した。

 変形が完了する頃にはスライムは逃げ始めている。


「逃がすかっ……!」


 スコープの照準を合わせ、『電磁弾』を発射する。

 木々の間を縫うように飛んだ電気の弾は、見事スライムに命中した。


 ピギイイィィ

 パァン!!


 液体を飛び散らせてメタルスライムが弾ける。


「勝てた……! 俺も戦える……」


 まだまだ修行しないといけないところはあるが少なくとも戦える程度の能力があることが分かっただけよかったな。


 木にもたれかかって息を整えていると、頭の中に音声が流れた。


『メタルスライムのログを参照。スキル『メタルコート』『高速撤退』を獲得しました』


 どうやらモンスターを倒しても『自動更新』は発動するようだ。より強力なモンスターを倒せば強力な機能が増えるってこともあり得るな。

 まだまだ成長できるってことだな。


 だけど、まだ俺の実力はついていない。

 変形しているときに逃げられてしまっているのがいい例だろう。


「今のを踏まえてスキル拡張するか」


 スライムジェルを回収し終わり、休憩もかねてスキル一覧を眺める。

 どれも魅力的なスキルばかりだが戦いのことを考えると必然的に必要なスキルは限られてくる。


「といっても……これが初めてだからな……」


 今まで歯車病患者にスキルがついているなんてことがなかったから、新しいものを追加しようなんて考えもしなかった。

 改造したとしてもスキルはつかないし、魔道機械があるから多くの患者はスキルなんてものをつけようとは思わない。

 そもそも改造は魔工整備士にしかできないし手間もかかるしな。


「さて……何を追加しようか」


 スキル一覧をスクロールする。

 ずらっと並んだスキルを眺めるだけでスクロールする指が疲れてきた。

 基本的には下に行けば行くほど拡張ポイントを多く消費するようだ。


『高速変形』だったり名前から分かりやすいものもあれば、ぱっと見何もわからないスキルもあったりする。

 その中から今必要なスキルを探すのは時間がかかりそうだ。


「ん? なんだこれ?」


 一つだけ、スキル一覧の底にへばりつくようにあるスキルを見つけた。

 一応『再生成』の派生形ではあるらしい。


『────』


 ただその文字が読めなくなっていた。

 まるでそのスキルだけ隠したいかのように、ひっそりとあるのだ。

 名前も効果も何もわからない。

 要求するポイントすらわからないから取りようがないのだ。


「なんだこれ……!」


 こんなスキルがあるなんて聞いてないんだが……。

 研究所の魔道機械にもスキルがなにもわからないものなんて一つもなかった。

 拡張してみたい気持ちもあるが得体のしれないスキルを追加するのもあんまりよろしくないだろう。


『────』の詳細を見ようとしても画面には文字どころか黒い点すら書かれていない。

 まずはその解放条件からひとつづつ探っていこう。


 ──そう思っていたが、あそこまで事態がこんがらがるとは……。


──────────────────────────────────────

【あとがき】

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